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癲狂院外景
てんきょういんがいけい |
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作品ID | 55485 |
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著者 | 富永 太郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「富永太郎詩集」 現代詩文庫、思潮社 1975(昭和50)年7月10日 |
入力者 | 村松洋一 |
校正者 | 川山隆 |
公開 / 更新 | 2014-04-16 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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夕暮の癲狂院は寂寞として
苔ばんだ石塀を囲らしてゐます。
中には誰も生きてはゐないのかもしれません。
看護人の白服が一つ
暗い玄関に吸ひ込まれました。
むかふの丘の櫟林の上に
赤い月が義理で上りました
(ごくありきたりの仕掛です)。
青い肩掛のお嬢さんが一人
坂をあがつて来ます。
ほの白いあごを襟にうづめて
脣の片端が思ひ出し笑ひに捩ぢれてゐます。
――お嬢さん、行きずりのかたではありますが、
石女らしいあなたの眦を
崇めさせてはいたゞけませんか。
誇らしい石の台座からよほど以前にずり落ちた
わたしの魂が跪いてさう申します。
――さて、坂を下りてどこへ行かうか……
やつぱり酒場か。
これも、何不足ないわたしの魂の申したことです。