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本土の港を指して
ほんどのみなとをさして
作品ID55521
著者今野 大力
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
初出「旭川新聞」1928(昭和3)年5月31日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-06-21 / 2015-03-08
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


津軽の海風は
暮れ行く夕日の彼方へと連絡船を冷たく吹き送る
桟橋に立ち去り兼ねて見送る人々とも別れて
身をマントに包み
頬をうずめて 物蔭甲板に佇めば
防波堤に点る明滅の灯火も見えずなり
巍然たる函館山の容姿も
次第に海をへだてて
水夫の投げこんだ速度計の速めらるるままに
闇の中に失われゆく
かくて海峡の海は次第に荒く
空よりは白き贈り物音もなく
真闇の中に降り来り、海に消え マストに積る
船は船底にひびくエンジンの音と
波を切り進む海路の跡をしばし残して
ひたすらに蜜柑の木々実る本土の
最北端の港 青森へと馳る



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