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我が愛する詩人の伝記
わがあいするしじんのでんき
作品ID55531
著者室生 犀星
文字遣い新字新仮名
底本 「我が愛する詩人の伝記」 中公文庫、中央公論社
1974(昭和49)年4月10日
初出北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
入力者きりんの手紙
校正者岡村和彦
公開 / 更新2022-03-26 / 2022-02-25
長さの目安約 237 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]
北原白秋

[#挿絵]
高村光太郎(撮影・浜谷浩)

[#改ページ]
[#挿絵]
萩原朔太郎

[#挿絵]
釈迢空(撮影・浜谷浩)

[#挿絵]
堀辰雄

[#改ページ]
[#挿絵]
立原道造

[#挿絵]
津村信夫

[#挿絵]
山村暮鳥

[#改ページ]
[#挿絵]
百田宗治

[#挿絵]
千家元麿

[#挿絵]
島崎藤村(撮影・土門拳)

[#改丁]

北原白秋



 明治四十二年三月、北原白秋の処女詩集『邪宗門』が自費出版された。早速私は注文したが、金沢市では一冊きりしかこの『邪宗門』は、本屋の飾り棚にとどいていなかった。当時、北原白秋は二十五歳であり私は二十一歳であった。金沢から二里離れた金石町の裁判所出張所に私は勤め、月給八円を貰っていた。月給八円の男が一円五十銭の本を取り寄せて購読するのに、少しも高価だと思わないばかりか、毎日曜ごとに金沢の本屋に行っては、発行はまだかというふうに急がし、それが刊行されると威張って町じゅうを抱えて歩いたものである。誰一人としてそんな詩集なぞに眼もくれる人はいない、彼奴は菓子折を抱えて何の気で町をうろついているのだろうと、思われたくらいである。
 処女詩集『邪宗門』をひらいて読んでも、ちんぷんかんぷん何を表象してあるのか解らなかった。南蛮風な好みとか幻想とか、邪宗キリスト教に幻妖な秘密の匂いを嗅ぎ出そうとしても、泥くさい田舎の青書生の学問では解るはずがなく、私は菓子折のような石井柏亭装幀の美しい詩集をなでさすって、解らないまま解る顔をして読んでいた。ただうろ覚えにわかることは、活字というものがこんなに美しく巧みに行を組み、あたらしい言葉となって、眼の前にキラキラして来る閃めきを持つこともあるということであった。こんなに活字が私の好みとうまく融け合って現われていることで、私はたいへんな物を読んでいるのだと思った。この北原白秋という人は自分の頭の中で一遍活字をならべて見て、それがどのように本の中に刷られるかを、ちゃんと見とどけている人だ、そこに驚きと訓えとを詩はまるで解らないままで読みながら、そんな変なものを受け取ったのである。
 それから四十七年も経った今日、『邪宗門』をふたたび精読してみて、邪宗門秘曲一連の詩はやはりむかしとおなじで、解らないものがあった。解ったような解らないものがくり返されて、私をうやむやに印象させた。だが、ことばというものを生みつける白秋のことでは、どういう頭もかなわなかったごとく、二十一歳の私が活字の威厳と色彩の発見について、白秋をえらい人だと心に置いたことも今日とかわらなかった。『邪宗門』がちんぷんかんぷん解らなくとも、えたいの知れぬ麻薬入りの活字があの中に封じこめられていることだけは、今日の私にも解るのである。
 私は白秋編輯であるところの『屋上庭園』という詩の雑誌の広告を見…

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