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![]() エスりょうようしょてんけい |
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作品ID | 55532 |
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著者 | 今野 大力 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「今野大力作品集」 新日本出版社 1995(平成7)年6月30日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2015-01-28 / 2015-01-06 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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療養所の看護婦はいつも
廊下をみがいている
ドアーのハンドルをみがいている
いくらみがいてもピカピカ光る程
この療養所の建物は新らしくない
それでも毎日
看護婦は廊下をみがきハンドルをみがく
主任が真先に立ってやって見せるし
主任の命令がきびしいので
看護婦は今日もみがきやになってる
病室に入って
病室のうすきたなさはちっともきれいにされない
病室には
廊下など歩くはおろか
半身を起せぬ患者が呻吟して居り
病室の手届かぬところに塵埃はうず高く
風の日の患者は真黒くなる
ある日主任は一人で
博士のようにおうように目礼もせぬ患者に
返礼をして
「どうですか」
ときいて廻る
主任の好き嫌いは甚しく
好意ある患者には笑顔もていとも親しく
嫌いな患者はどんな苦痛を訴えても
「少し我慢が足らんですよ」と
きめつけられる
主任の当直は患者を不眠にさせ
あわれな附添は息子を退所させると
おびやかされる