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死んだ妹に寄せて
しんだいもうとによせて
作品ID55549
著者今野 大力
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-03-14 / 2015-02-17
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


私の妹が死んだ、
妹は十四年この世に生きていて死んだ
私はそれを施療病院のベットの上できいた
涙も出なかった、そして
泣くよりも切ない気持で一人の幼き者の死を追慕した
死なせたくはなかった、
生かしておいてこの世の中の正しい希望に
よろこばせてやりたかった
生れてきたからには
そして肉親の兄である私が三十年の間に
学んできたことを
折ある毎に語りきかせ
苦難の道ではあるが
輝やかしいわれわれの未来について
屹度彼女を生き甲斐あるように導いてやれたろう
(このことは私が
とくに肉親の兄妹であるから
感ずるだけのものではない
若し私が妹の場合のように理解がお互に出来る人があるなら、
凡ての人間に抱くことである)

妹はまだ幼かった
彼女はまだ肉親以外の誰からも
この世の中では真に親しまれ、慕われてはいなかった
ほんとうの頼りとなってやる人のいない娘が
これから人間一生の夜明けを前にして
新らしい時代の夢も見ずに
ただ私達の過去の惨苦な生活だけに短かい生涯を埋めつくしてしまったことを
何よりもせつなく思う

私達は今まだ私達の時代を持たない
時代は今、旧い時代に対して戦いつつ
新らしい時代の中心が
いつの時代よりも巾広く底深く力強く
形づくられているのだ
眼に見ゆるものは悲壮にも平凡にも見える
耳に聞えるものはおそろしくも悲しくも聞こえる
戦いがすさまじいだけに そこでは
選りすぐった盤石のような闘士を
鍛えている
弱いもの 卑怯な者はとてもそこには
居たまらない
そこにはただ
ただ確固たる信念に
あらゆるものをやきつくすような
革命家がのこされる

この世は今安らかではない
肉体的にかよわい彼女のような女はずい分苦るしいかもしれない、しかしなお
彼女にだって未来を理解することが出来た
彼女にだって与えられた部署で
生命を賭して戦うことが出来た
このことは偉大な真理である

私は今からだの不自由な死におびやかされている病人であるが例え健康であろうと
彼女の屍に何の手向けも出来ない
又墓土の一片も遂に持てないであろう彼女に一本の草花も植えてやることは出来ない
われわれの墓地に美しい花が咲き
小さい小鳥がきてうたいさけぶのは
これから先のことだろう

私達はたとえどんなにみじめで
どんなに苦痛であろうとも
生きられるだけ生き抜かねばならない
生きられる限り生きつづけて
新らしい時代を迎えなければならない
新らしい時代は刻々に近づきつつある
十四年間貧しく
惨めな生活にひしがれて死んだ彼女を
心から死なせたくはなかった、
生かして希望の生活に導いてやりたかった



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