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豚
ぶた |
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作品ID | 55588 |
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著者 | 今野 大力 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「今野大力作品集」 新日本出版社 1995(平成7)年6月30日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2015-06-15 / 2015-03-08 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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もったいない事である
肺患者の残した
実に多量の食物は惜し気もなく捨てられる
鮭の照焼や筍やうどふきのうま煮なんか
多くの人々にとって
大した御馳走なんだのに
一椀の飯さえ思うように喰えぬ人々が見たら
おおめまいしてしまいそうな
食物の山山
近所の豚がこの滅多に人間さえ食べないものを
うんと腹一杯たべてコロコロに肥っている
豚が肥えて肉屋に並べられても
それが何とか西洋料理支那料理になっても
豚の食う程のものすら喰えぬ人間に
なんでそれを一口食べられようか
もったいないことである
貧乏な患者に附添う老爺は
自分の患者のたべないものを
こっそりかくしておく
そしてあとで
自分がそれを喰べる
一日四十五銭の附添食費を浮ばせるために
だが、若しこれが、病院の誰かに発見されたら
何といって叱られるか
何といっておどかされるか
恐怖に戦き食べる老爺は毎日下痢をやっている。
五・二〇