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俳句への道
はいくへのみち |
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作品ID | 55609 |
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著者 | 高浜 虚子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「俳句への道」 岩波文庫、岩波書店 1997(平成9)年1月16日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2014-03-22 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 124 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
おやをもり俳諧をもりもりたけ忌 虚子
もりたけ(荒木田守武)
室町末期の俳人・連歌師 天文十八年八月八日没
[#改ページ]
序
二、三年来『玉藻』誌上に載せた短い俳話を集めて本書が出来た。されば「玉藻俳話」とでも題する方が適切かも知れぬ。いずれにせよ、私の信ずる俳句というものは斯様なものであるという事を書き残して置くものである。
往年岩波茂雄君から、従来発行し来った岩波文庫の他に今度岩波新書を発行しようと思う、それについて私に「俳句への道」という一篇を執筆してもらいたい、という話があった。私は、出来たらば書いて見よう、と約束した。その後十年、二十年と月日が経って、茂雄君は亡くなってしまった。が、最近また改まって岩波新書として「俳句への道」を書いてもらいたいという話があった。昔茂雄君の依嘱に応え得なかったことを心残りに思っておったところである。その頃『玉藻』に載せはじめた俳話類を纏めたものでよろしければと言った。それでも宜しいとの事であった。それから一、二年を経過して、漸く書物になるだけの分量になった。それに「俳句への道」という題を附することにした。
この書に輯めたものは私が従来しばしば陳べ来ったものをまた言を改めて繰り返したものに過ぎぬ。私の俳句に対する所信に変りはない。しかし時に応じ物に即して筆を採ったものであるから、今の俳句界に対して無用の言とはいえないであろう。
昭和二十九年十月二日
鎌倉草庵にて
高浜虚子
[#改丁]
俳句への道
一
私等は、日本という国ほど景色のいい所は世界中ないような心もちがします。こういうと世界の国々を知っている人は、そんな事はない、何処にはこういう景色がある、彼処にはああいう景色がある、それを知らないで、世界を充分見もしないで、ただ日本だけ見て、そんな独りよがりをいうのは、いわゆる井の中の蛙のたとえで、物知りには笑われるから、そんな事をいうのは慎んだがよかろうというに極っています。
それに違いありません。私がちょっと仏蘭西まで旅行して来ただけでも、その途中でさまざまないい景色に接して参りました。中国の江南の景色、セイロンの落日の景色、仏蘭西のローヌ河畔の木の芽の景色、ムードンの森の驟雨の景色、独逸のライン河の古城の景色、ベルギーのヒヤシンス・チュウリップ等の花畠、オランダの風車、倫敦の霧等、数えれば数限りなくある。しかしながら、我が日本という国は山・谷・川・平野・湖沼・港湾・長い海岸線等が、狭い日本国というところに納っておって、しかも暑からず寒からず、つまり酷暑酷寒というような自然の虐待を受けることなく、春夏秋冬がほどよく環って来て、変化に富んでいて、春夏秋冬の草木禽獣虫魚、天文地理の諸現象、それらの変化を楽しむことが出来るということは、まずまず日本国などこそ…