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留魂録
りゅうこんろく
作品ID55749
著者吉田 松陰
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本記録全集 2 維新の風雲」 筑摩書房
1968(昭和43)年9月25日
入力者sogo
校正者酒井和郎
公開 / 更新2017-10-27 / 2017-09-24
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

身はたとひ
武蔵の野辺に朽ちぬとも
留め置かまし大和魂

十月念五日     二十一回猛士

一、余、去年已来心蹟百変、あげて数へがたし。なかんづく、趙の貫高を希ひ、楚の屈平を仰ぐ、諸知友の知るところなり。ゆゑに子遠が送別の句に「燕趙の多士一の貫高。荊楚深く憂ふるは只屈平」といふもこのことなり。しかるに五月十一日関東の行を聞きしよりは、また一の誠字に工夫をつけたり。ときに子遠、死字を贈る。余これを用ひず、一白綿布を求めて、孟子の「至誠にして動かざる者は、いまだこれ有らざるなり」の一句を書し、手巾へ縫ひつけ、携へて江戸に来たり、これを評定所に留め置きしも、わが志を表するなり。
  去年来のこと、恐れ多くも天朝・幕府の間、誠意あひ孚せざるところあり。天、いやしくもわが区々の悃誠を諒したまはば、幕吏かならずわが説を是とせんと志を立てたれども、「蚊[#挿絵]山を負ふ」の喩、つひに事をなすことあたはず今日に至る、またわが徳の菲薄なるによれば、いま将た誰れをか尤め、かつ怨まんや。
一、七月九日、はじめて評定所呼び出しあり。三奉行出座、尋鞠の件、両条あり。一に曰く、梅田源次郎長門下向の節、面会したる由、何の密議をなせしや。二に曰く、御所内に落文あり、その手跡汝に似たりと源次郎そのほか申し立つる者あり、覚ありや。
  この二条のみ。それ梅田は、もとより奸骨あれば、余ともに志を語ることを欲せざるところなり、何の密議をなさんや。わが性、公明正大なることを好む、豈に落文なんどの隠昧のことをなさんや。
  余、ここにおいて六年間幽囚中の苦心するところを陳じ、つひに、大原公の西下を請ひ、鯖江侯を要する等のことを自首す。鯖江侯のことに因りて、つひに下獄とはなれり。
一、わが性、激烈怒罵に短かし。つとめて時勢に従ひ、人情に適するを主とす。これをもつて吏に対して幕府違勅の已むをえざるを陳じ、しかるのち当今的当の処置に及ぶ。その説つねに講究するところにして、つぶさに対策に載するがごとし。これをもつて幕吏といへども甚だ怒罵することあたはず、ただちに曰く、「汝陳白するところことごとく的当とも思はれず。かつ卑賤の身にして国家の大事を議すること不届きなり」。余また、ふかく抗せず、「ここをもて罪を獲るは万々辞せざるところなり」といひてやみぬ。
  幕府の三尺、布衣、国を憂ふることをゆるさず。その是非、われ曽つて弁争せざるなり。聞く、薩の日下部以三次は対吏の日、当今政治の欠失を歴詆して「かくのごとくにては往先三五年の無事も保しがたし」といひて鞠吏を激怒せしめ、すなわち曰く「これをもつて死罪をうるといへども悔いざるなり」と。
  これ、われの及ばざるところなり。子遠の死をもつてわれに責むるも、またこの意なるべし。唐の段秀実、郭曦においては彼がごとくの誠悃、朱[#挿絵]においては彼がごとくの激烈、しからばす…

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