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色盲検査表の話
しきもうけんさひょうのはなし
作品ID55751
著者石原 忍
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本記録全集9 科学と技術」 筑摩書房
1970(昭和45)年2月28日
入力者sogo
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2014-01-01 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私の色盲検査表がどうしてできたものであるか、いかなる経路で汎く世界に用いられるようになったかということについて簡単に申し上げましょう。
 今からおよそ三十年前、私が大学院に在学いたしました時に、私は一人の全色盲の患者を検査して、その成績を眼科学会雑誌に発表したことがありました。これはわが国における全色盲の最初の報告であったのですが、これ以来私は色盲に興味を持つようになり、いろいろと色盲の事を調べてみました。そのときある日私は友人と一緒にスチルリング氏の仮性同色表を手本にして日本文字の色盲検査表を作る練習をしていました。ところがその時の友人が偶然色盲でして、その人が何げなく、おそらく面白半分であったのでしょうが、ひとつ色盲者には読めるが健康者には読めないような表を作ってみようかといって、描いて見せてくれたことがありました。それによって私は一つの暗示を得まして、なる程そういう表もできるわけだ、そうすれば健康者と色盲者と異った字を読む表もできるわけだし、また工夫をすれば健康者にはたやすく読めるが、色盲者や色弱者には容易に読めないような表もできるわけだと思い機会があったら実行してみようと思ったのであります。それは色盲及び色弱の大部分が赤緑色盲及び赤緑色弱であり、それらの人の共通の性質として、赤色と緑色との区別は多少とも不完全であるに拘らず、青色と黄色とを区別することは健康者と変りがない。即ち赤緑の色の差異に比較して、青黄の色の差異が非常に明瞭に感じるという性質を有していることを知りましたから、その性質を色盲検査表に応用して従来のものよりも進歩した感度のよい表を作ってみようという考えであったのであります。
 しかしこの考えを実行に移すには少からざる労力と費用とを要しますので、しばらくの間そのままになっていました。
 その後五、六年を経過して大正四年となりました。その頃私は陸軍軍医学校に勤務いたしておったのですが、幸いにも陸軍省から徴兵検査用の色盲検査表を作ることを命ぜられたのであります。そこで私は予て考えていたことを実行してみようと思い、ある日曜日にスチルリング氏の表を参考として健康者と色盲者と異った字を読むような表を作りました。その頃また幸いにして軍医学校の眼科に色盲の軍医がいましたから、翌日その表をその軍医に見てもらって試験しましたところ、大概私の予想通りの結果を得ましたので、大いに自信を得て愉快でした。それから毎日その色盲の軍医の補助によって色盲者に間違い易いような幾組かの色彩を紙に塗っておきまして、次の日曜日にその色を使って更に第二第三の表を描きましてその色盲の軍医に見てもらい、かようにして研究をつづけて行ったのであります。そうして数カ月の後に漸く一通りの原稿ができ上ったのですが、さてそれを印刷するのにどういう大きさにすればよいか、どんな色合いにすればよいか…

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