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庭園の雨
ていえんのあめ |
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作品ID | 55757 |
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著者 | 北原 白秋 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「白秋全集 3」 岩波書店 1985(昭和60)年5月7日 |
入力者 | 岡村和彦 |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2016-11-13 / 2016-09-09 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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松の葉の青きに
しとしとと雨はふる。
凄まじき暴風雨の後に
針のごと雨はふる。
色黄なる毛虫は
土に沁みつき、
月見草は
萎れて白し。
桐、樅、無花果、
人工の盆栽の梅、
犯されし小娘か、みな、
泣き伏して声もなし。
しとしとと雨はふる。
浜の砂庭に吹き散り、
陸橋の下には
傷つきし犬瞳を凝らす。
あまりにも静かなり、ただ、
腹切りし苦しさに
肩衣をはねのけし瀬尾、
その青き松の震慄。
かくて、わが終日、
針のごと雨はふる。
海見ゆる涼台の破風に
光り、かつ、をぐらく。
雨はふる、しとしとと、
雨はやむ、またしばし、
夕されば血の如き虹
遂にまた海と空とに。