えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

私の信条
わたしのしんじょう
作品ID55790
著者牧野 富太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本記録全集9 科学と技術」 筑摩書房
1970(昭和45)年2月28日
初出「世界」岩波書店、1953(昭和28)年
入力者sogo
校正者持田和踏
公開 / 更新2023-02-24 / 2023-02-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

 何んでもこうしようと思っている考えは大小となく軽重となくいずれも信条である、ですから、人々はたくさんな信条を持っているわけだ、それゆえ信条のない人はおそらく世の中に一人もあるまい。
 だが、信条には立派な信条もあればつまらぬ信条もある、偉大な人の信条はこの上もなく立派なものであるのだが、平凡な人の信条はその人のように全く平凡である。
 私は凡人だから凡人並みの信条を持っている。その中で私として最も大なる信条は、わが日本の植物各種を極めて綿密にかつ正確に記載し、これを公刊して書物となし、世界の各国へ出し大いに日本人の手腕を示して、日本の学術を弘く顕揚し、かつ学界へ対して極めて重要な貢献をなし得べきものを準備するに在る、つまり各国人をアット言わせる誇りあるものを作りたいのだ。そして日本人はこのくらい仕事をするぞと誇示するに足るものを作らねばならん。
 これは日本の植物学者に出来ぬ仕事かどうかといえば、それは確かに出来る仕事であると、私はこれを公言し断言するに躊躇しない。すなわちこの目的を以て既に出来たものが、私の著述の『大日本植物志』すなわち“Icones Florae Japonicae”であった。
 私は大学にいる時、大学での責任仕事としてこの大著述に着手した。それは私一人の編著であった。そして私を信じて創めてこの仕事を打立て任せてくれた恩人は当時大学の総長の浜尾新先生であった。
 私は間もなく浜尾先生の仁侠により、至大の歓喜、感激、乃至決心を以て欣然その著述に着手した。私はこの書物について一生を捧げるつもりでいた、そして次のような抱負を持っていた。すなわち第一には日本には、これくらいの仕事をする人があるぞという事、その図は極めて詳細正確で世界でもまずこれ程のものがそうザラにはない事、かつ図中植物の姿はもとよりその花や果実などの解剖図も極めて精密完全に書く事、その描図の技術は極めて優秀にする事、図版の大きさを大形にする事、その植物図は悉く皆実物から忠実に写生する事、このようにして日本の植物を極めて精密にかつ実際と違わぬよう現わす事、まずおよそこんな抱負と目的とをもって私は該著述の仕事を始めた。その原稿は精根を打込み自分で描いてこれを優れた手腕のある銅版師に托して銅版彫刻とし或は石版印刷としたが、後には幾枚かのその原図を写生画に巧みで、私の信任する若手の画工に手伝わしたこともあった。
 この大冊(縦一尺六寸、横一尺二寸)の第一巻第一集が明治三十三年(1900)二月に出版せられて西洋諸国の大学、植物園などへも大学から寄贈せられた。次いで第二、第三、第四集と続けて刊行したが、元来植物学教室で当時私は極めて不遇な地位に在りながら奮闘しておったため、教授の嫉妬なども手伝って冷眼せられ、悪罵せられなどして、この『大日本植物志』の刊行は第四冊目でストップしてしまった。今…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko