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いたずら小僧日記
いたずらこぞうにっき
著者佐々木 邦
文字遣い新字新仮名
底本 「佐々木邦全集1 いたずら小僧日記 珍太郎日記 親鳥子鳥」 講談社
1974(昭和49)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者芝裕久
公開 / 更新2020-05-04 / 2020-04-28
長さの目安約 129 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 乃公は昨日で満十一になった。誕生日のお祝に何を上げようかとお母さんが言うから、乃公は日記帳が欲しいと答えた。するとお母さんは早速上等のを一冊買って呉れた。姉さん達は三人共日記をつけているから、乃公だってつけなくちゃ幅が利かない。
 物は最初が大切だそうだ。初めて逢った時可厭だと思った人は何時までも可厭だとは、お花姉さんの始終言う事だ。それで乃公も此最初を巧くやる積りで、色々と考えて見たが、どうも面白い事が書けない。すべて物には始めがある。正月は明けましてで始まり、演説は満堂の紳士淑女諸君で始まり、手紙は拝啓陳者で始まる。しかし日記は何で始まるものか、始からして分らないのだから、全然見当がつかない。弱っちまう。
 お花姉さんのには什[#挿絵]事が書いてあるか知ら、一つお手本を拝見してやろうと好い所に気がついて、乃公は窃と姉さんの室へ上って行った。平常机の引出に入れとくのは承知しているが、鍵がかってあるので、合う奴を探すのに大骨を折った。
 実際鍵をかけて置く筈だ。乃公の悪口が大分書いてある。第一太郎太郎と呼捨てに書いとくのが気に食わない。「太郎のオシャベリが皆喋って了った」等は頗る厳しい。どっちがお喋りだ。兎に角処分は追って後の事として、帰って来ない中にと、乃公は一生懸命で丁寧に一頁写し取った。
 日が暮れると間もなく、富田さんがやって来た。富田さんは毎晩のように遊びに来る。肥り返って岩畳骨格の男だ。顔は頗る不器用で御丁寧に鰥と来ているが、お金は大層あるそうだ。お島のいう所に依ると大分お花姉さんに参っているそうだが、トランプで参ったかピンポンで参ったか、其辺までは詳しく訊いて見なかった。
 乃公が例の日記帳を抱えて、得意然と客間へ入って行くと、富田さんは例の赤ら顔をテカテカさせて、
「やあ、太郎さん、どうだね」
 と言って、キャンデーを呉れた。乃公は此人は那[#挿絵]に嫌いでもない。君の持っているのは其は何かねと訊くから、是は日記帳です、未だ買いたての貰いたての写したてのホヤホヤですと答えた。すると尚お拝見致したそうにしているから、お目にかけてやった。
「ふーむ、是や豪気だ。金縁だね」
 と富田さんは仔細らしく乃公の日記帳を見ている。姉さんのお気に入ろうと思って、乃公にまで恁[#挿絵]に御愛嬌を振撒くのだろうが、豪気だの豪勢だのという下町言葉を使っては、気位ばかり妙に高いお花姉さんに好かれる筈がない。それでも富田さんが、
「花子さん、これから私が太郎さんの日記を朗読致しますから、歌子さんも御謹聴なさい」
 といって椅子を離れた時には、お花姉さんもお歌姉さんも、何卒といったように頷いた。乃公も面白かろうと思って、別段故障を申立てなかったが、今考えて見ると彼の時故障を申立てると宜かった。トウトウ大変な事になって了った。富田さんは委細頓着なく、エヘンと気取った咳払…

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