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一点鐘
いってんしょう
著者三好 達治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第一卷」 筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日
初出ある橋上にて「四季 五七號」1941(昭和16)年5月<br>波「婦人公論」1941(昭和16)年6月<br>貝殼「婦人公論」1941(昭和16)年6月<br>既に鴎は「婦人公論」1941(昭和16)年6月<br>この浦に「文學界 八卷九號」1941(昭和16)年9月<br>重たげの夢「文學界 八卷九號」1941(昭和16)年9月<br>鴎どり「改造 二三卷七號」1941(昭和16)年4月<br>この朝「四季 五九號」1941(昭和16)年7月<br>志おとろへし日は「婦人公論」1941(昭和16)年7月<br>淺春偶語「知性」1941(昭和16)年5月<br>浮雲一片「文學界 九卷四號」1941(昭和16)年4月<br>閑雅な午前「文學界 八卷四號」1941(昭和16)年4月<br>山上の鷄「朝日新聞」1941(昭和16)年2月22日<br>きそは冬「文藝」1941(昭和16)年4月<br>風蕭々「文學界 八卷六號」1941(昭和16)年6月<br>謎の音樂「中央公論 五六卷五號」1941(昭和16)年5月<br>灰色の鴎「中央公論 五六卷五號」1941(昭和16)年5月<br>沙上「文學界 八卷九號」1941(昭和16)年9月<br>わが耳は「文學界 八卷九號」1941(昭和16)年9月<br>丘上吟「文學界 八卷一號」1941(昭和16)年1月<br>路傍吟「文學界 八卷一號」1941(昭和16)年1月<br>冬の日「文學界 八卷八號」1941(昭和16)年8月<br>あはれよしわれらの國は「婦人公論」1941(昭和16)年2月<br>南の海「文藝 四卷三號」1936(昭和11)年3月<br>合本一點鐘あとがき「合本一點鐘」創元社、1944(昭和19)年4月
入力者kompass
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2020-04-05 / 2020-03-29
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いく年かものにまぎれて筐底にひそみゐし舊詩二章、その心あわただしくその詞もとより拙きのみか、遠き日の情懷ははた囘顧するにものうけれども、この集の著者がなほけふの日の境涯をいささかまた歌ひえたるに肖たるを覺ゆ、すてがたければとどめて序にかへんとす――



一點鐘二點鐘



靜かだつた
靜かな夜だつた
時折りにはかに風が吹いた
その風は そのまま遠くへ吹きすぎた
一二瞬の後 いつそう靜かになつた
さうして夜が更けた
そんな小さな旋じ風も その後谿間を走らない……

一時が鳴つた
二時が鳴つた
一世紀の半ばを生きた 顏の黄ばんだ老人の あの古い柱時計
柱時計の夜半の歌
山の根の冬の旅籠の
噫あの一點鐘
二點鐘

その歌聲が
私の耳に蘇生る
そのもの憂げな歌聲が
私を呼ぶ
私を招く

庭の日影に莚を敷いて
妻は子供と遊んでゐる
風車のまはる風車小屋
――玩具の粉屋の窓口から
砂の麺麭粉がこぼれ出る
麺麭粉の砂の一匙を
粉屋の屋根に落しこむ

くるくるまはれ風車……
くるくるまはれ風車……

卓上の百合の花心は
しつとり汗にぬれてゐる
私はそれをのぞきこむ
さうして私は 私の耳のそら耳に
過ぎ去つた遠い季節の
靜かな夜を聽いてゐる
聽いてゐる
噫あの一點鐘
二點鐘


木兎



木兎が鳴いてゐる
ああまた木兎が鳴いてゐる
古い歌
聽きなれた昔の歌
お前の歌を聽くために
私は都にかへつてきたのか……
さうだ
私はいま私の心にさう答へる

十年の月日がたつた
その間に 私は何をしてきたか
私のしてきたことといへば
さて何だらう……
一つ一つ 私は希望をうしなつた
ただそれだけ

木兎が鳴いてゐる
ああまた木兎が鳴いてゐる
昔の聲で
昔の歌を歌つてゐる

それでは私も お前の眞似をするとしよう
すこしばかり歳をとつた この木兎もさ


海 六章




ある橋上にて

十日くもりてひと日見ゆ
沖の小島はほのかなれ

いただきすこし傾きて
あやふきさまにたたずめる

はなだに暮るるをちかたに
わが奧つきを見るごとし



沖にはいつも
灰色の鴎の群れと
白くくづれる波の穗がしら

ことわりや
われがうれひの
絶ゆる日なきも

貝殼

昨夜ひと夜
やさしくあまい死の歌を
うたつてゐた海

しかしてここに殘されし
今朝の沙上の
これら貝殼

既に鴎は

既に鴎は遠くどこかへ飛び去つた
昨日の私の詩のやうに
翼あるものはさいはひな……

あとには海がのこされた
今日の私の心のやうに
何かぶつくさ呟いてゐる……

この浦に

この浦にわれなくば
誰かきかん
この夕この海のこゑ

この浦にわれなくば
誰かみん
この朝この艸のかげ

重たげの夢

重たげの夢はてしなく
うつうつと眠るわたつみ

的[#挿絵]と花かぐはしく
六月の柑子の山は

柑子のなりにまどかなる
つらなりてそ…

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