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短歌集 日まはり
たんかしゅうひまわり
著者三好 達治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第一卷」 筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日
初出やま鳥「苑 三號」1934(昭和9)年7月<br>白骨温泉にて 「うら山に」から「戞然と」まで「作品 四卷一號」1933(昭和8)年1月<br>行潦 「秋の日の」から「あたたかき藥壜こそ」まで「作品 三卷一一號」1933(昭和7)年11月<br>神崎川附近 「茜さす」から「曳船は」まで「作品 四卷二號」1933(昭和8)年2月<br>同 「淡雪や」から「出來島と」まで「作品 四卷三號」1933(昭和8)年3月<br>同 「春のこし」から「石を斫る」まで、「この郷に」から「鳶の舞ふ」まで「尺牘 四號」1933(昭和8)年4月<br>同 「春の雪」から「川べりの」まで「作品 四卷四號」1933(昭和8)年4月<br>同 「黄梅を」から「はつはつと」まで「作品 四卷五號」1933(昭和8)年5月<br>同 「春水に」から「善念寺」まで「本 第一號」1933(昭和8)年4月<br>同 「めじろ鳥」「短歌研究 六卷六號」1937(昭和12)年6月<br>發哺温泉にて 「山の湯の」二首、「油蝉」から「向つ山」まで、「路のべに」から「蜻蛉より」まで、「天狗湯の」から「上林」まで「短歌研究 二卷一〇號」1933(昭和8)年10月<br>同 「晝の雲」「谿の霧」「つばくらら」「今宵また」「名なし山」「鶴作の」「大工ひとり」、「鎗ヶ嶽」から「實をもてる」まで「苑 二號」1934(昭和9)年4月
入力者kompass
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2019-04-05 / 2019-03-29
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


短歌集 日まはり
わが跫音
路をうつわが杖の音
われは聴く
わが生の音づれ


[#改ページ]
[#ページの左右中央]


日まはりや床屋しづけき菜園に


[#改ページ]



やま鳥


草生ふる電車線路を
あしびきの
やま鳥はつと
走り越えにき


白骨温泉にて


うら山に
銃の音せり
時をへず またも音せり
鶫落ちけむ

日のあたる
石垣の裾の 鷄ら
たちて歩めり
一羽のこれる

落葉松の林に入りぬ
繍眼兒らは
われをさけつつ
枝うつりする

もろもろの
想ひのはてよ
落葉松のしづ枝にたちて
松の香をかぐ

これやこの
さやかに胸にしのびいる
落葉松の香に
にし戀もがな

夕づつの 傾くころを
谿あひの
住ひの前に
薪を割るひと

夕ぐれの
谿間に薪を割る人の
鉈のうごきの
あはれなるかも

木枯しも
四邊の山のをちをゆく
靜けき庭に
狐啼きたり

きその夜も この夜も
水車小屋にきて
ただひとこゑを
啼く狐かな

戞然と
狐啼きたり
筆を擱きぬ
わが嘆かひも 歩み出でんとす

めでたさは
冬のはじめの山峽に
太しき熊を
獲てし狩くら

熊を割き
酒ほがひせる 夜のふけの
歌ごゑきけば
山はかなしき


行潦


秋の日の
行潦の邊に 雀兒ら
こもごも來り
みそぎするかも

小春日の
百日紅の枝 撓めつつ
搖れつつ
蟲を 食める雀兒

あたたかき藥壜こそ
しみじみと
手によろしけれ
病みて秋更く

友は來ね
軒端にあそぶ雀兒の
つばさのかげり
わが書に落つ

病ひいえて
また山川を戀ひそめぬ
鴫にも似たる
わがこころかな

しみじみと
世のみじかきを思ふかな
こころしづかに
あめつちを見む

ひとしきり
落葉は土にひそまりぬ
御堂の影を
飛べる黄の蝶


神崎川附近


茜さす
かの夕燒をよしといひ
母ぢやと渡る
冬の橋かな

除夜の鐘
川のあなたに起るらし
汽車の遠音の
とどろきくるも

汽車のゆく
遠音はきこゆ
物置きの 亞鉛の屋根に
猫とび下りつ

色ふりし
富士紡績の煉瓦塀
その裏路を
オートバイ行く

堀割の
夕ぐれをゆく艪のきしみ
煙突はみな
けむをなびかす

枯れ草の黄ばめるほどに
夕陽さす
韓國人の 屋根にある


大橋の
橋の袂にもやひたる
しも肥舟に
鶺鴒ゐるも

汪洋と
潮のみちくる 冬の橋
わが見るときに
ともりけるかな

霜の夜に 嘆かふこころ
鏘然と
鎧の袖の
ふれあふごとし

地にありて
何はなけれど
人情の 濃やかなるに
泪はおつれ

百ばかり
枠に張りたる牛の革
ほせる廣場に
霰たばしる

曳船は
ゆくらゆくらに上りくる
その煙突の
注連飾りかな

淡雪や
うづのみづ兒の宮詣で
うぶ衣のきぬの
さやさやなるも

雪のふる
鎭守の宮の樟の木に
ごむ風船の
ゆれてかかれる

網干せり
腰蓑…

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