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オカアサン
オカアサン
作品ID55985
著者佐藤 春夫
文字遣い新字新仮名
底本 「文豪の探偵小説」 集英社文庫、集英社
2006(平成18)年11月25日
初出「女性」1926(大正15)年10月
入力者sogo
校正者Juki
公開 / 更新2015-01-01 / 2015-01-01
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 その男はまるで仙人のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。指の爪がみんな七八分も延びているのです。それがしきりとわたしに白孔雀の雛を買えとすすめるのですから、わたしはお伽噺みたようなその夜の空気がへんに気に入ってしまったのです。そうしてわたしはつい一言、そんな高価なものを買ってもいいようなことを言ってしまったのです。が、いいあんばいに先方の値とわたしの値とは倍以上も違ったものだから、まるでお話にも何もならずにしまったのです。それでこの話はおじゃんになったのですが、しかし小鳥屋の才取をするこの仙人は、わたしに鳥を売りつけようという考は思いきらなかったものと見えます。一週間ばかりして今度はわたしに鸚鵡を買えとすすめて来たのです。
 仙人は初めこの鳥を持って来て、これを紹介しました――十やそこらは完全に口を利く。それの発音は明確で微妙である。その上に何だかわからないが長いこと喋りもする。歌は「ハトポッポ、ハトポッポ」とそれだけしか歌えないけれども、その調子の自然なところが、この鳥の有望なところだ。まだ三歳ぐらいな若鳥だと思うから仕込みさえすれば、童謡の一つぐらいは完全に歌うだろう。この鳥の名は「ロオラ」というのだ……と、そこで「仙人」はわたしのうちの女中にビスケットを買って来させて、それを鳥に見せながら言うのです。
「ロオラや」
 すると鸚鵡は体をくねらせてあのまるい大きな嘴を胸の方へ押しつけながら(しなをつくったような形で)
「ロオラや!」
 それがわたしに三十四五ぐらいな夫人の気取ったつくり声を思わせました。
 鸚鵡は仙人の話によると雄だそうですが、わたしにはその声と身振とのためにどうしても、女としか思えませんでした。大きな鳥籠のぐるりを、金太郎(わたしのうちの狆の名です)はぐるぐるまわりながら吠えました。ロオラは相手のその狂暴には一向驚きもしないで、彼女自身も犬の吠える真似をもって応戦しました。金太郎が躍気になって籠に顔を押しつけるとロオラはいきなり最もグロテスクな嘴でそれに立向ったので、金太郎はびっくりして後退りをしました。ロオラは金太郎の狼狽を見ると急に、
「ホ、ホ、ホ、ホ、ホ」
 と、笑い出しました。雄鶏がときをつくる時のように、上を見上げて意気揚々としてダンスを踏みました。それから、くるりと下向きになりながら体のむきを変え、また尾を扇のようにひらいてダンスを踏み、また回転しつづけるのです。
「ね、面白いでしょう」
 仙人が僕の目つきを見て、すかさずそういう。
 こういうわけで多少無理におしつけられた形でした。それになかなか高かったのです。わたしは多少後悔しました。妻はわたしの感じを見抜いてしまっていて、わたしを例によって調子にのって煽てられたのだと甚だ不きげんなのです。しかし、わたしはそれの世話をした仙人を、見かけこそうす汚いが霊まで垢のつい…

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