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右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID560
副題12 毒色のくちびる
12 どくいろのくちびる
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(二)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者kazuishi
公開 / 更新2000-02-16 / 2014-09-17
長さの目安約 53 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1

 ――ひきつづき第十二番てがらにうつります。
 事の勃発いたしましたのは、前回の身代わり花嫁騒動が、いつもながらのあざやかな右門の手さばきによってあのとおりな八方円満の解決を遂げてから、しばらく間を置いた二月上旬のことでしたが、それも正確に申しますればちょうど二日のことでした。毎年この二月二日は、お将軍日と称しまして、江戸城内ではたいへんめでたい日としていましたので、というのは元和九年のこの二月二日に、ご当代家光公がご父君台徳院秀忠公から、ご三代の将軍職をお譲りうけになられましたので、それをお祝い記念する意味から、この日をお将軍日と唱えまして、例年なにかお催し物をするしきたりでしたが、で、ことしも慣例どおりなにがな珍しい物を催そうと、いろいろ頭をひねった結果が、上覧相撲をということに話が決定いたしました。それというのが、将軍さまから、相撲にせい、という鶴の一声がございましたので、たちまちこれに決定したのですが、しかしお将軍さまという者は、偉そうに見えましても、存外これでたわいがないとみえまして、いつも木戸銭なしでご覧できるご身分なんだから、どうせお催しになるなら幕内力士の、目ぼしいところにでも相撲をさせたらよさそうなものを、どうしたお物好きからか、当日召しいだされた連中は、いずれも三段目突き出し以下の、取り的連中ばかりでありました。もっとも、相撲通のかたがたにいわせると、相撲のほんとうにおもしろいところは、名のある力士どうしの型にはまってしまった取り組みではなくて、こういうふうに取り的連中の全然予測できないもののほうが、ずっと溌溂でおもしろいという話ですから、その点から申しますと、存外将軍さまもすみにおけないお見巧者であったことになりますが、いずれにしてもその日お呼び出しにあずかった者どもは、番付面に名があるにはあっても、虫めがねで大きくしなければその存在がわからない、いわゆる拡大鏡組の連中ばかりでありました。
 しかし、そう申しますと、ひどくこの虫めがね組が取るに足らない雑兵のように聞こえますが、これがなかなかどうして、ただの取り的どもだと思うとたいへんな勘違いで、実にこのお三代家光公の寛永年間は、そのかみ垂仁天皇の七年に、はじめて野見宿禰と当麻蹴速とがこの国技を用いて以来、古今を通じて歴史的に最も相撲道が全盛をきわめた時代でありました。それが証拠は、今も伝わる日の下開山の横綱制度は、実にこの寛永年間にはじめて朝廷からお許しなされたもので、その第一世だった明石志賀之助は身のたけ六尺五寸、体量四十八貫、つづいて大関を張った仁王仁太夫は身のたけ七尺一寸、体量四十四貫、同じく大関だった山颪嶽右衛門は体量四十一貫、身のたけ六尺八寸といったように、いずれもその時代全盛をきわめた関取連中は、大仏さんの落とし子みたいな者ばかりでしたから、したがってその幕…

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