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冬ごもり
ふゆごもり
作品ID56012
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「霧退治 ―科學物語―」 岩波書店
1950(昭和25)年3月15日
初出「北方風物 第一巻第十二号」北日本社、1946(昭和21)年12月10日
入力者いしかわけん
校正者塚本由紀
公開 / 更新2014-10-08 / 2014-10-08
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]
第6圖 ニセコ山頂の冬ごもり
[#改丁]
冬ごもり

[#挿絵]
第7圖

 冬ごもりといえば、二米も三米もある深い雪に埋もれて、薄暗い部屋の中で炬燵にもぐり込んで、じっと春の來るのを待つような生活を考える人が多いであろう。そして今までの我が國での冬ごもりといえば、事實そういう生活を指していることが多かった。
 秋田縣や山形縣から、雪の名所新潟縣はもちろんのこと、北陸地方一帶にかけて、私たちの祖先はそういう冬ごもりの生活を、今までに千五百年くらいもの間、ずっと續けて來ていた。そしてそれはごく近年までも續いているのである。
 ところが世界はまことに廣大なもので、それに科學の進歩は止るところを知らない。それで廣く世界を見渡してみると、いろいろな冬ごもりが近年にはなされていた。そのうちで冬ごもりの世界記録というものを探すとしたら、それはソ聯のパパーニン一行の北極に於ける冬ごもりを第一に擧げるべきであろう。
 ソ聯は國力を強めるために、國土計畫というものをたてて、國土全體の生産を如何にしてあげるべきかを、たくさんの科學者を集めて二十年來研究させ、それを着々と實行して來ていた。もちろんあの廣大なシベリアの開發も、その中での重要な題目であった。そのためには北方の氣象をよく知る必要がある。それにソ聯では、北極洋を碎氷船によって航海しようという、たいへんな大事業を計畫していた。そのためにも北方の氣象、特に北極附近の氣象を、一年を通じて測らねばならないので、その準備を、もう二十年も前から進めていた。
 その準備が大體完了したので、いよいよ北極の氷の上に觀測所を作って、其處へ學者をやって、一冬の間冬ごもりをさせて、氣象觀測をやろうということになった。そういう夢のような計畫をほんとうに實行しようということにしたのが、昭和十二年の春であった。即ち日華事變の始まった年のことである。
 北極には陸地は無いので、氷原の上にテントを張って、そこで一冬を過そうというのである。この觀測には、北極の氣象に關しては世界的の學者であるパパーニンを隊長として、皆で四人の學者があたることになった。四人の人間が、北極の氷の上で一年間住み、氣象の觀測をして、その報告を毎日モスコーへ無電で通報しようというのであるから、その準備がたいへんである。せっかく北極で冬ごもりをするのであるから、普通の氣象の觀測以外に、海洋學や地球磁氣の研究もすることになり、その器械も持って行くことにした。
 一寸考えてみても、北極で一年暮すというのであるから、テント、食糧、防寒具、觀測器械、無電の發信器と受信器、その電源、燃料、醫藥品などなど、たいへんな荷物である。途中で何か欲しいといっても、來年の夏までは屆ける方法もないのであるから、器械が故障を起した場合の部分品から修理道具までも持っで行かねばならない。四人の觀測者とこ…

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