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第三者
だいさんしゃ
作品ID56027
原題INTERLOPER
著者サキ
翻訳者妹尾 アキ夫
文字遣い新字新仮名
底本 「山岳文学選集九 ザイルの三人」 朋文堂
1959(昭和34)年6月30日
入力者sogo
校正者枯葉
公開 / 更新2016-03-04 / 2015-12-24
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 東部カルパチア山地の森の中である。
 ある冬の寒い晩、一人の男が銃を片手に耳をすましていた。ちょっとみると、鳥か獣があらわれるのを待っているようだ。が、じつのところはそうでないのである。この男――ウルリッヒ・フォン・グラドウィツは、人間があらわれるのを待っているのだ。
 彼が所有する山林には、野獣がたくさんいた。でも山林のはずれのこのあたりには、そんなにいない。それにもかかわらず、このあたりが気になって仕様がないのだ。もともとこの山林は、彼の祖父が、不法な理由で所有していた小さい地主から、裁判沙汰で無理に奪いとったものである。奪われた小地主は、その裁判が不服だった。それいらい、長いあいだ、両方の地主の争いがつづいて、グラドウィツが家長になるころには、両家の個人的憎悪にまで発展していた。つまり、この両家は三代にわたって仇敵のごとく争っているのだ。グラドウィツが世界中で一番にくらしいと思うのは、自分の土地に侵入して野獣をとるこのズネームという小地主だった。グラドウィツとズネームは、子供のときからおたがいに相手の血にうえていた。両方が相手の不幸を心から願っていた。だから、この風の寒い冬の晩、グラドウィツは数名の部下に森を歩かせ、もし泥棒が侵入したら捕えるよう命令したのである。いつもはしげみに隠れてめったに姿をみせぬ牡鹿が、その晩にかぎって森のあちこちを走った。ほかの森の動物もいつもとはちがって騒々しい。そのわけはよく分っている。ズネームが侵入しているにちがいないのだ。
 彼は山の高いところに部下を配置し、自分一人は急な斜面をおりて、麓の深い森へはいり、風にそよぐ梢の音や、木と木のふれあう音に耳をかたむけた。密猟者がはいりこんでいないか。ズネームが潜んでいないか。もしこの風の暴れる夕方、邪魔する第三者のいないこの淋しい森の中で、仇敵ズネームとめぐりあうことができたら、おお、その時こそ――これが彼のなによりの願望だった。そして、そんなことを考えながら、[#挿絵]の巨木の幹をまわると、当の仇敵とぱったり顔をあわせたのである。
 ふたりの敵と敵は、長いあいだにらみあっていた。どちらも怨恨にもえ、手に鉄砲をもっていた。一生に一度の情熱を爆発させる時がきた。けれど、遺憾ながら、彼らはどちらも文明の世に生れた人間なので、無言のまま、平然と人を殺す気にはなれなかった。どうしてもきっかけというものが必要だった。
 それで、二人がもじもじしていると、そこに横あいから、大自然の手が加わったのである。先刻から吹きあれていた強風が、一段と猛烈に木々をゆるがしたと思うと、その拍子に[#挿絵]の大木の幹がめりめりとおれて、どさんと大きな音をたてて倒れ、逃げだすすきもなく、二人をおさえつけてしまったのだ。グラドウィツの片手は麻痺し、片手は二股になった枝におさえつけられ、両足も同時に太い枝におさ…

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