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「ザイルの三人」訳者あとがき
「ザイルのさんにん」やくしゃあとがき
作品ID56031
著者妹尾 アキ夫
文字遣い新字新仮名
底本 「山岳文学選集九 ザイルの三人」 朋文堂
1959(昭和34)年6月30日
入力者sogo
校正者枯葉
公開 / 更新2017-03-04 / 2017-01-12
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 十三篇の短かい山岳小説を訳して、「青春の氷河」と題して、朋文堂からだしたのは、昭和十七年三月のことだったが、こんどその十三篇のうちから五篇を除外し、あらたに五篇をくわえて、「ザイルの三人」としてだすことにした。
 巻頭の「ザイルの三人」は、Edwin M[#挿絵]ller の Three on a Rope. で、この作はストランド誌の一九三二年十一月号にのった[#「のった」は底本では「のつた」]。原作者ミュラーのことをいろいろ調べてみたが、どんな本にも名前がでておらず、当時のイギリスのフーズ・フーにさえのっていない。だから、この人についていえることは、名前から判断して、おそらくドイツ系の無名作家で、時たまストランド誌に山岳小説をかいていたが、その山岳小説は、読者の胸にくいこむ鋭いものでなかったにせよ、とにかく、そつのない書きぶりで、みな一様にある点まで達していたということだけである。
 ストランドという雑誌は、一八九三年ごろロンドンで創刊された、短篇小説ばかりのせる月刊雑誌で、六十年つづいて、大戦後二、三年たってつぶれた。つまり、イギリスの国威がもっともさかんだったヴィクトリア朝から、ジョージ六世までつづいたわけで、この期間は、イギリスにかぎらず、世界の短篇小説というものが、ジャーナリズムと結びついて、もっともおびただしく生産され、もっともおびただしく読まれた時代であった。
 いま、私がなんの記録もしらべず、たちどころにその名を思いだせる当時のイギリスの短篇小説の雑誌だけでも、ストランドのほかに、ロンドン、プレミヤー、グランド、ピアスン、ストーリーテラー、トェンティーストーリズ、ロヤル、アーゴシー、マクリュアなぞがあるが、これら短篇小説専門の雑誌は、みな第二次大戦がおわるとともに、ほろんでしまったのである。そして、その後は、ラジオ、テレビに押され、イギリスにもアメリカにも、ショートストリーのよい雑誌というものは、ほとんど本屋の店頭に影をみせなくなったといってもよいありさまとなった。
 いま名前をあげたたくさんの雑誌のなかでも、ストランドはもっとも発行部数が多くて、私たち日本人が知っている作家では、オーモニア、ゴルスワージー、キプリング、グレアム・グリーン、モーム、ドイル、オプンハイム、ショーなぞが毎月執筆していたが、面白いのは、この雑誌の表紙の絵が、六十年間ほとんどおなじだったということである。この雑誌をだしている出版社が、ロンドンのストランド街にあったので、雑誌の表紙には、いつも彩色をしたストランドの街の風景が描いてあった。それは、遠景に聖メリー寺院の尖塔のみえる、サザンプトン街との交叉点からみたストランド街で、クリスマスごろに発行した雑誌の表紙には、聖メリーの尖塔の高いところからちらちら白い雪がふっているところを描き、春になるとストランドの街角に花売…

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