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中山七里 二幕五場
なかやましちり にまくごば
作品ID56085
著者長谷川 伸
文字遣い新字新仮名
底本 「長谷川伸傑作選 瞼の母」 国書刊行会
2008(平成20)年5月15日
初出「舞台戯曲」1929(昭和4)年10月号
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2020-03-15 / 2020-02-21
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔序幕〕 第一場 深川材木堀
     第二場 政吉の家
     第三場 元の材木堀
〔大詰〕 第一場 飛騨高山の街
     第二場 中山七里(引返)


川並政吉    女房お松  酒屋の作蔵
おさん     川並金造  同百松
流浪者徳之助  同三次郎  同高太郎
同おなか    同藤助   同老番頭
亀久橋の文太  木挽治平  猟師
餌差屋の小僧・恐怖した通行人・空家探しの夫婦・酒屋の小僧・深川の人々・高山の人々・そのほか。
[#改ページ]


〔序幕〕




第一場 深川材木堀

深川木場の材木堀。秋の日が西に傾きかけた頃。
堀の中には角材が浮いている。堀際には立木があり、一方には木挽の仕事座、一方には水揚げした角材がある。

木挽の治平が角材を枠にかけ、挽き目に時々栓を打ち込んでは、膝を立て腰をあげさげして、鋸をズイズイと入れている。
川並の三次郎(五十歳近い)が、角材の下に転木――二本か三本――を入れ、その歪みを正しながら「ようッこのウ」と音頭をとっている。三次郎の使用した鳶口の付いた竹棹――それは川並専用の道具――は、立木にもたせ掛けてある。
川並の藤助、金造その他は鳶口棹を角材に打ち込み、三次郎の取る音頭の、ようッこのウを受けて「よう」と曳いている。

三次郎 ようッこのウ!
藤助等 よう。
三次郎 (手を挙げ)待った待った、ここでいいとしよう。さあテコをかってくれ、コロを抜いてしまうから。
金造  おい来た、そらよ。(鳶口棹を木製のテコに持ちかえ、角材の下に入れ)ううむ。
藤助  待て待て俺が一丁加わるから。(テコを入れ)それ来た、よいやさの、ううむ。
金造等 ううむ。
三次郎 もうちッともうちッと。よし来た。(コロを一本抜き取り)ご苦労ご苦労。さあもう一丁。(次のコロを抜きにかかる)

名ある旗亭の女中おさん(二十二、三歳)通りがかりの振りをして川並の仕事を見ている。
木挽治平、のっそり挽き目に栓を打込みかけ、おさんに心づいて見ている。
おさん、川並たちの中に求める男が見えないので、あちこちと見廻す。
治平はニヤニヤしながら仕事にかかる。
おさんは思わず前に出て、抜き取られて放り出してある一本のコロに躓く。

おさん あれ。(よろめいて地に坐る)
藤助  (おさんに背中を向けてテコを入れている)だれでえ。女のくせに仕事場の邪魔に来たのは、もし不浄な体だったら、俺達が災難にあうかも知れねえんだぞ。
三次郎 (笑いながら)黙れよ藤の字、顔をよく見てから啖呵を切れ。
金造  本当だあ。他の人じゃあるめえしなあ、おさんさん。
おさん (とっくに起ちあがり着物の塵を払い)ご免なさい、そそっかしいもんだから、飛んだお邪魔をしてしまって済みませんねえ。
藤助  なんだ政ちゃんのジタバか。こいつはいけねえ。そんなら剣身を食わせるんじゃなかった。おさ…

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