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新奇談クラブ
しんきだんクラブ
副題06 第六夜 人形の獄門
06 だいろくや にんぎょうのごくもん
著者野村 胡堂
文字遣い新字新仮名
底本 「奇談クラブ(全)」 桃源社
1969(昭和44)年10月20日
初出「朝日 第三巻第六号」博文館、1931(昭和6)年6月1日
入力者門田裕志
校正者江村秀之
公開 / 更新2020-10-15 / 2020-09-28
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

名人大六雲鼎
「人形の首を梟した、――という話、気味は悪いが、充分に面白い積りです」
 第六番目に立った話の選手大滝左馬太は、奇談クラブの談話室で、斯う話し始めました。
「これも今の世の事ではありません。天保十一年の晩春、十一代将軍家斉の治下で、江戸の風物は熟れた果物のように、甘酢ぱく頽廃し切った時のこと、私の為には流祖、人形師としては、古今の名人と言われた松本鯛六――一名大六雲鼎は、鑿一挺で大変なものを拵えてしまったのです。これはとても小説になるような話ではありませんが、その代り事実は小説よりも奇なりで、こんな馬鹿馬鹿しい話は、小説家の頭ではとても考え出されません。名人大六雲鼎や、華魁小紫の霊を慰める為に、是非聴いてやって下さい」
 大滝左馬太は斯んな調子で始めて行きます。

持ち込んだ華魁人形

「親分」
「何んだ、八」
「人形を見て下さいって男が来ましたぜ」
「何?」
 柳原の顔役、左衛門の長次は拱いた腕を解いて、その分別臭い顔を挙げました。
「両国の活人形に一枚差し加えて下さるまいかてんでさ、恐ろしく丁寧な口をききますが、お貰いのような野郎ですぜ、免倒臭かったら断ってしまいましょうか」
 お先っ走りの八、――木戸番と使い走りをやって居る塩辛声の八は、親分の渋い顔を見ると、縁側からこんな呑み込んだ事を言います。
「待て待て誰が免倒臭えなんて言った」
「ヘエ――」
「どうせ、素人衆のももんがあ見てえな細工だろうが、兎に角一応見て上げよう。長次が拝見いたしますって、丁寧に通すんだぞ」
「ヘエ――」
 両国に見世物小屋を持って居る長次の許へは、時々飛んでもないものが舞い込みますから、もとより大抵の事では驚きません。やがて八に案内されて来たのは、未だ若い立派な男ですが、尾羽打ち枯らして見る影もない風体、三尺四方ほどに、高さ六尺にも余る素木の箱を、二、三人の子分の者に運ばせて、恐る恐る縁側からにじり込みます。
「御免下さい、私は彫物師の松本鯛六と申す者、唯今は無理な願いを早速お聴き届け下すって有難う御座います」
 年の頃二十七、八、妙にやつれは[#「妙にやつれは」は底本では「妙にやつれは」]見えますが、細面に切れの長い眼、少し青白い顔も肌合の職人らしく、どう見ても田舎者や素人衆などではありませんが、其の代り身扮は如何にも粗末で、畳の上に並べた膝の上にも、克明にお辞儀をすると、正面に見れる肩のあたりにも、鍵裂やら継接やらが、二つ三つならず算えられます。
「申すまでもなく両国の活人形は、宮川光遙先生が心魂をこめて作り上げた、十二ヶ月の年中行事、先ず当代並ぶ者もあるまいと言われる結構な作だ。お前さんも其の道の方のようだから、これ位の事がお解りにならない筈は無い――多分、あの中へ立ち交っても、引けを取らないような見事な作をお持ちだろうな」
 これは止めの釘、出来の悪い時…

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