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くさ
作品ID56249
著者新美 南吉
文字遣い新字新仮名
底本 「新美南吉童話集 2 おじいさんのランプ」 大日本図書
1982(昭和57)年3月31日
入力者江村秀之
校正者持田和踏
公開 / 更新2023-03-22 / 2023-03-20
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 八月八日のおひるすぎ、おとなたちがござをしいて昼寝をしているじぶん、心平君たちは、いつものように、土橋のところへあつまりました。それから、山の大池に向かって、しゅっぱつしました。
 六年生の兵太郎君がせんとうで、ほかの者は、そのあとに二列にならび、げんきよく、「世紀の若人」の歌をうたってゆきました。
 みかん畠の下までくると、みんな歌をやめました。
「敵のようすをさぐってこい。」
と兵太郎君が、五年生の喜六君にいいました。喜六君は、からだが小さく、すばしこいので、いつも斥候になるのです。
 喜六君はズック靴をぬいで、畠の垣根になっている槇の根方にかくし、いたちのようにすばやく、池の方へのぼってゆきました。
 敵というのは、山をこえた向こうの村の子どもたちのことです。向こうの村の子どもたちは、夏休みになってから毎日大池にきて、こちらの村の子どもたちと水あび場をうばいあうのでした。そのため毎日けんかがあるのでありました。
 心平君たちは、ひっそりして、みかん畠の下に待っていました。
 すると、斥候の喜六君が、かえってきました。
「いるぞオ。」
と声をひそめてほうこくしました。
「そうか。どうしとる?」
と大将の兵太郎君が、ききました。
「みんな鎌を持っとるぞオ。」
 心平君は、それをきいて、どきりとしました。あぶないことだと思ったのです。
「敵は鎌を持っとるげなが、どうする?」
と兵太郎君は、みんなにききました。
 むかっていこう、と考えたものと、あぶないから、きょうは帰ったほうがよい、と考えたものとありました。けれど、帰った方がよいと考えたものは、考えただけでだまっていました。そんなことをいえば、臆病者と笑われるような気がしたからです。
 そこで、むかってゆくことになりました。遠くから石を投げつけてやれば、敵が鎌なんか持っていても平気だ、というのでした。
 みかん畠の上に出ると、大池の堤がみえました。そこに二十人くらいの敵が、手に手に鎌を持っていました。草をかっていたのです。
 ちょうど五十メートルくらいはなれているので、心平君たちのほうは、ここからけんかをしかけることにしました。
「さァ、金助。」
と大将の兵太郎君が、いいました。金助君は、浪花節語りがかぜをひいているような声で、遠くから敵をののしったり、あざわらったりするには、いちばんてきしているのです。
 そこで金助君が、みんなから、五メートルくらい先に出て、
「やアい、
 きんのの
 けんかア
 わすれたかア。」
と節をつけてどなりました。浪花節のような太い声は、山の向こうでも聞こえたろう、と思われるくらいよくひびきました。
 けれど、敵はだまって草をかっていました。きょうはようすがすこしへんでした。
 金助君が、それからいろいろきたないことばで、敵をののしりました。敵がおこって、むかってくるように、…

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