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小さい太郎の悲しみ
ちいさいたろうのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「新美南吉童話集 2 おじいさんのランプ」 大日本図書
1982(昭和57)年3月31日
入力者江村秀之
校正者諸富千英子
公開 / 更新2018-03-22 / 2018-02-25
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 お花畑から、大きな虫がいっぴき、ぶうんと空にのぼりはじめました。
 からだが重いのか、ゆっくりのぼりはじめました。
 地面から一メートルぐらいのぼると、横にとびはじめました。
 やはり、からだが重いので、ゆっくりいきます。うまやの角の方へのろのろとゆきます。
 みていた小さい太郎は、縁側からとびおりました。そしてはだしのまま、篩をもって追っかけてゆきました。
 うまやの角をすぎて、お花畑から、麦畑へあがる、草の土堤の上で、虫をふせました。
 とってみるとかぶと虫でした。
「ああ、かぶと虫だ。かぶと虫をとった」
と小さい太郎はいいました。けれどだれもなんともこたえませんでした。小さい太郎は兄弟がなくてひとりぼっちだったからです。ひとりぼっちということはこんなときたいへんつまらないと思います。
 小さい太郎は縁側にもどってきました。そしておばあさんに、
「おばあさん、かぶと虫をとった」
とみせました。
 縁側にすわっていねむりしていたおばあさんは、眼をあいてかぶと虫をみると、
「なんだ、がにかや」
といって、まためをとじてしまいました。
「ちがう、かぶとむしだ」
と小さい太郎は口をとがらしていいましたが、おばあさんには、かぶと虫だろうが蟹だろうが、かまわないらしく、ふんふん、むにゃむにゃといって、ふたたび眼をひらこうとしませんでした。
 小さい太郎は、おばあさんの膝から糸ぎれをとって、かぶと虫のうしろの足をしばりました。そして縁板の上を歩かせました。
 かぶと虫は牛のようによちよちと歩きました。小さい太郎が糸のはしをおさえると、まえへ進めなくて、カリカリと縁板をかきました。
 しばらくそんなことをしていましたが、小さい太郎はつまらなくなってきました。きっと、かぶと虫にはおもしろい遊び方があるのです。だれか、きっとそれを知っているのです。



 そこで小さい太郎は、大頭に麦わら帽子をかむり、かぶと虫を糸のはしにぶらさげて、かどぐちを出てゆきました。
 ひるはたいそうしずかで、どこかでむしろをはたく音がしているだけでした。
 小さい太郎は、いちばんはじめに、いちばん近くの、桑畑の中の金平ちゃんの家へゆきました。金平ちゃんの家には七面鳥を二羽かっていて、どうかすると、庭に出してあることがありました。小さい太郎はそれがこわいので、庭まではいってゆかないで、いけがきのこちらからなかをのぞきながら、
「金平ちゃん、金平ちゃん」
と小さい声でよびました。金平ちゃんにだけ聞こえればよかったからです。七面鳥にまで聞こえなくてもよかったからです。
 なかなか金平ちゃんに聞こえないので、小さい太郎はなんどもくりかえしてよばねばなりませんでした。
 そのうちに、とうとううちの中から、
「金平はのオ」
と返事がしてきました。金平ちゃんのお父さんのねむそうな声でした。「金平は、…

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