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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題048 お藤は解く
048 おふじはとく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌」 嶋中文庫、嶋中書店
2004(平成16)年5月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1936(昭和11)年2月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者結城宏
公開 / 更新2018-10-01 / 2018-09-28
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」
 南町奉行配下の吟味与力筆頭笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、銭形の平次にこう言うのでした。
「ヘエ、――旦那のおっしゃることなら、否を申す私ではございませんが」
 平次は縁側に踞ったまま、岡っ引とも見えぬ、秀麗な顔を挙げました。笹野新三郎には、重々世話になっている平次、今さら頼むも頼まれるもない間柄だったのです。
「南の御奉行が、事をわけてのお頼みだ、――お前も聞いたであろう、深川木場の甲州屋万兵衛が今朝人手に掛って死んだという話を――」
「ツイ今しがた、溜にいる八五郎から耳打をされました。あの辺は洲崎の金六が縄張で――」
「それも承知で頼みたい。――甲州屋万兵衛は町人ながら御奉行とは別懇の間柄、一日も早く下手人を挙げたいとおっしゃる――金六は一生懸命だが、何分にも老人で、届かぬ事もあろう、すぐ行ってくれ」
「畏まりました」
 吟味与力に頼まれては、嫌も応もありません。平次は不本意ながら、大先輩洲崎の金六と手柄争いをする積りで、木場まで行かなければならなかったのです。
「八、手前が行くと目立っていけねえ、神田へ帰るがいい」
 永代まで行くと、後ろから影のごとく跟いて来る、子分の八五郎に気が付きました。
「帰れと言えば帰りますがね、親分、あっしがいなきゃア不自由なことがありますよ」
 八五郎の大きな鼻が、浅い春の風を一パイに吸って悠々自惚心を楽しんでいる様子です。
「馬鹿、大川の鴎が見て笑っているぜ」
「鴎で仕合せだ、――この間は馬に笑われましたぜ。親分の前だが、馬の笑うのを見た者は、日本広しといえども、たんとはあるめえ」
「呆れた野郎だ、その笑う馬が木場にいるから、甲州屋へ行くついでに案内しようという話だろう、落はちゃんと解っているよ」
「ヘッ、親分は見通しだ」
 八五郎はなんとか口実を設けては、親分の平次に跟いて行く工夫をしているのです。
 木場へ行くと、町内大きな声で物も言わない有様で、その不気味な静粛の底に、甲州屋の屋根が、白々と昼下りの陽に照されておりました。
「お、銭形の」
 何心なく表の入口から顔を出した洲崎の金六は、平次の顔を見ると、言いようもない悲愴な表情をするのでした。
「ちょいと見せて貰いに来たよ、八の野郎の修業に――」
 平次はさり気ない笑顔を見せます。
「笹野の旦那の言い付けじゃねえのか」
「とんでもない、旦那は兄哥の腕を褒めていなさるよ、年は取っても、金六のようにありたいものだって」
「おだてちゃいけねえ」
 金六はようやくほぐれたように笑います。近頃むずかしい事件というと、八丁堀の旦那方が、すぐ平次を差向けたがるのは相当岡っ引仲間の神経を焦立たせていたのです。
「俺の手柄なんかにする気は毛頭ねえ。どんな事だか、ちょいと教えて貰えめえか」
「それはもう、銭形のが智恵を貸してくれさえ…

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