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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ |
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作品ID | 56313 |
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副題 | 047 どんど焼き 047 どんどやき |
著者 | 野村 胡堂 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「銭形平次捕物控(四)城の絵図面」 嶋中文庫、嶋中書店 2004(平成16)年8月20日 |
初出 | 「オール讀物」文藝春秋社、1936(昭和11)年1月号 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 結城宏 |
公開 / 更新 | 2018-09-27 / 2019-11-08 |
長さの目安 | 約 28 ページ(500字/頁で計算) |
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一
「あ、あ、あ、あ、あ」
ガラッ八の八五郎は咽喉仏の見えるような大欠伸をしました。
「何という色気のない顔をするんだ。縁先で遊んでいた白犬が逃出したじゃないか、手前に喰い付かれると思ったんだろう」
のんびりした春の陽ざしの中に、銭形平次も年始疲れの、少し奈良漬臭くなった足腰を伸して、寝そべったまま煙草の烟の行方を眺めていたのです。
「だがね、親分、正月も三ヶ日となると退屈だね。金は無し、遊び相手は無し、御用は無し、――そこで考えたんだが、二度年始廻りをする術はないものでしょうか――明けましてお目出とう、おや八さん、昨日も年始に来たじゃないか、ヘエー、そんなはずはないんだが、あっしは暮から風邪を引いて今日起き出したばかりですよ、それはたぶん八五郎の偽者でしょう――なんて上がり込む工夫はないものかな」
八五郎の想像は、会話入りで際限もなく発展して行きます。
「馬鹿野郎、――よくそんな間抜けな事が考えられたものだ」
「――それも樽を据えた家に限るね、一升買いの酒じゃ、飲んでも身にならねえ」
「呆れた野郎だ」
「でなきゃア、御用始めに、眼の玉のでんぐり返るような捕物はないものかなア。親分の前だが、今年こそ、うんと働きますぜ。江戸中の悪党が、八五郎の名を聞いただけで眼を廻す――てな事になると――」
「八、気を付けるがいいぜ、雪のない正月で、いやにポカポカするから」
「ね、親分、今度はあっしに任せて下さいな、どんな事でも、一人で捌いて世間の人をアッと言わせますから」
「いい気のものだ、――おや、そう言えば御用始めらしいぜ、手前逢ってみるか」
平次が隣室に隠れる間もありません。バタバタと入って来たのは、若い男。
「銭形の親分さん、た、大変、――すぐお出で下さい」
突きのめされそうな声です。二十五六、大店の手代風ですが、余程面くらったものと見えて、履物も片跛、着物の前もろくに合っておりません。
「お前さんは、どこから来なすったえ」
八五郎は精一杯の威儀を作ります。
「安針町の、さ、相模屋から参りましたが、――わ、若旦那が昨夜――」
手代はゴクリと固唾を呑みました。
「これを飲んで少し落着いてから話すがいい。そうあわてちゃかえって筋が通らねえ」
平次がぬるい茶を一杯くんで出すと、それを一と息に呑みほして、しばらくホッと胸を撫でおろします。
「若旦那がどうした――」
と平次。
「昨夜殺されましたよ」
手代はぞっと身を顫わせます。
「昨夜殺されたと、何だって今頃あわてて飛んで来るんだ。あの辺は第一、小網町の仙太の縄張じゃないか」
ガラッ八は少しむくれて見せました。
「そう言うな、八、――ね番頭さん、お前さんが下手人の、疑いを受けたんだろう」
「えッ、どうしてそれを、親分さん」
「昨夜の殺しを、今頃あわてて俺のところへ言って来るのは、よくよく困ったことがあ…