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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題100 ガラッ八祝言
100 ガラッぱちしゅうげん
著者野村 胡堂
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(十)金色の処女」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年2月20日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者結城宏
公開 / 更新2019-05-24 / 2019-04-26
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ガラッ八の八五郎が、その晩聟入りをすることになりました。
 祝言の相手は金沢町の酒屋で、この辺では裕福の聞えのある多賀屋勘兵衛。嫁はその一粒種で、浮気っぽいが、綺麗さでは評判の高いお福という十九の娘、――これが本当の祝言だと、ガラッ八は十手捕縄を返上して、大店の聟養子に納まるところですが、残念ながらそんなうまいわけには行きません。
 実際のところは、その晩聟入りの行列などを組んで歩いたら、命を奪られるかも知れないという、――真実の聟、仲屋の倅錦太郎に頼まれて、いやいやながらガラッ八は、聟入りの贋物になることを引受けさせられてしまったのです。
 この頼みが持込まれたとき、さすが呑気者のガラッ八も、再三辞退しました。が、錦太郎の頼みがいかにも真剣で、涙を流さぬばかりに拝むのと、親分の銭形平次が、多賀屋の身上、主人勘兵衛の評判から、娘お福の行状、それから聟の仲屋の暮し向きから、錦太郎の人柄まで調べ抜き、「なるほどこれは、うっかり祝言をさせられない」ということが解り、自分からもガラッ八を説いて、「いざ三三九度の杯という時、真物の聟の錦太郎と入れ替らせるから」という条件で、漸く聟入りの偽首になることを承知させたのでした。
 祝言は多賀屋の身代にしては出来るだけつつましやかに、当日の客は余儀ない親類を五六人だけ、聟入りもほんの型ばかりということにして、偽首の八五郎が、仲人宝屋祐左衛門夫婦に護られ、駕籠の垂れを深々とおろして、多賀屋へ乗込んで行ったのは、秋の宵――酉刻半(七時)そこそこという早い時刻でした。
 途中は平次の子分や、ガラッ八の友達が多勢で見護り、行列はまず何の障りもなく多賀屋の門口を入りました。紋切型の挨拶を上の空に聞いて、奥へ通されると親分の平次が、恐ろしく真面目くさった顔をして迎えてくれます。
「どうだい八、満更悪い心持じゃあるめえ」
 最初の平次の言葉はこんな調子でした。
「変な心持ですよ、親分」
「あやかりものだよ、――化けついでにもう少しそのままにしていてくれ。真物の聟は陽が暮れるとすぐここに来ているが、肝腎の嫁の支度が出来ない。三三九度はいずれ一刻も後のことだろう、その時はお客様で鱈腹呑むがいい」
「呑んだってつまらねえ」
「ひどく落胆するじゃないか、――だがな八、聟にもよりけりだが命を狙われる聟なんてものは、あまり有難くないぜ」
「有難くなくたって、偽物よりは器量が良いじゃありませんか」
「まア、そう言うな」
 ガラッ八の不満は、平次も察しないではありませんが、こうするより外に術のない切羽詰った情勢だったのです。
「親分は、いろいろの事を調べたんでしょう」
「まア、調べたつもりだ」
「誰が一体聟を殺そうなんて心持になっていたんで――」
 聟の錦太郎が青くなって平次のところへ飛込んだのは知っていますが、深い事情はガラッ八もよくは知らなかっ…

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