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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題102 金蔵の行方
102 きんぞうのゆくえ
著者野村 胡堂
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年5月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1939(昭和14)年10月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者noriko saito
公開 / 更新2019-06-14 / 2019-05-28
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「へッ、へッ、可笑しなことがありますよ、親分」
「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑いなんかしやがって、顔へ墨でもついていると言うのかい」
 銭形平次は、ツルリと顔を撫でました。三十を越したばかり、まだなかなか良い男振りです。
「気が短いなア、そんな人の悪い話じゃありませんよ、へッ、へッ」
 ガラッ八の八五郎は、まだ思い出し笑いが止まりません。馬のような大きな歯を剥き出して、他愛もなく笑う様子は、どうも十手捕縄と縁のある人間とは思えません。
「イヤな野郎だな。可笑しくて笑う分には年貢は要らねえが、顔の造作は台なしだぜ。そんな羽目をはずした相好を、新造に見せねえようにしろ」
「ね、親分、相好ぐらいは崩したくなりますよ。三輪の親分が風邪を引いて寝込んだのはいいが、縄張内に起ったことの捌きがつかなくなって、お神楽の野郎が泣きを入れて来たんだから面白いじゃありませんか」
 ガラッ八はすっかり御機嫌になって、手を揉んだり額を叩いたり。
「馬鹿野郎、人様の病気が何が面白い」
「――お願いだから、銭形の親分に智恵を貸して貰ってくれ――って、あの高慢なお神楽の清吉がそう言うんだからよくよくでさ。だからあっしがそう言ってやったんで、――憚りながら、銭形の親分は智恵の時貸しはしねえとね」
「智恵の時貸しって奴があるかい」
「山の宿の丸屋の主人が行方知れずになって、もう三十日にもなるが、まるっきり見当がつかないそうですよ。お役人方からお小言が出たんで、三輪の親分仮病を使っているんじゃありませんか」
「そいつは放ってもおけまい。すぐ行ってみようか、八」
 こんな調子に運んで来ると、平次も案外気軽に御輿を挙げます。
 近頃すっかり暇で、ろくな掻っ払いもないせいもあったでしょう。
 浅草山の宿の金蔵というのは、まだ三十三四の若い男ですが、三年前新鳥越から移って来て金貸を始め、ちょっとの間に、メキメキと身上を肥らせて行きました。かつて新鳥越に栄華を誇った、菱屋の番頭をしていて溜め込んだと言われ、元手が非常に潤沢な上、金蔵は年に似ぬ締り屋で、女房を貰って、一人口ふやすのが惜しさに、下女一人、小僧一人を相手に、稼業大事と必死と働いていた様子です。
 その丸屋の金蔵が、ちょうど一と月前の八月十七日の晩、下女も小僧も知らないうちに、どこへともなく出て行ってしまったのでした。身扮も平常のまま、金は一文も持っていたはずはなく、その上心掛けのある町人に似げなく、麻裏草履を突っかけて、手拭を一本持ったきりで出て行ったのですから、三輪の万七が一と月がかりで嗅ぎ廻っても、この失踪の謎は解けそうもありません。
「ところが、主人の金蔵が家出をしてから、四日目の晩に泥棒が入って、店にあった主人の財布ごと、有金二三十両盗った上、十四になる小僧の要吉に怪我をさせて行きましたよ」
 ガラッ八は得意の聴…

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