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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
作品ID56364
副題095 南蛮仏
095 なんばんぼとけ
著者野村 胡堂
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(十)金色の処女」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年2月20日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者結城宏
公開 / 更新2017-10-19 / 2019-11-23
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 屑屋の周助が殺されました。
 佐久間町の裏、ゴミ溜めのような棟割長屋の奥で、魚のように切られて死んでいるのを、翌る朝になってから、隣に住んでいる、蝮の銅六という緡売りの、いかさま博奕を渡世のようにしている男が見付け、町内の大騒動になったのです。
 周助はもう六十に手の届いた男、鉄砲笊を担いで江戸中を廻り、古着、ガラクタ、紙屑までも買って歩いて、それを問屋に持込み、わずかばかりの口銭を取って、その日その日を細々と送っている屑屋ですから、人に怨まれる筋などのあるべきはずもなく、そうかといって泥棒につけ狙われるほど、纏まった貯えのありそうな人間でもなかったのです。
 ガラッ八の八五郎は、平次の指図でとにもかくにも飛んで行きました。
「八兄哥、もう遅いよ、下手人は挙がったぜ」
 それを迎えて、路地一パイの大きな顔を見せるのは、お神楽の清吉です。
「へエー、そいつは手廻しがよかったね」
 ムッと来たのを顔にも出さずに、この縄張荒らしに微笑をさえ見せるように、近頃の八五郎は鍛錬されていました。が、その微笑の苦渋な歪みは、八五郎の意志ではどうすることも出来ません。
「三輪の親分が、蝮の銅六を挙げて行ったよ。今頃は番所で調べているだろう。蝮と言われた男だから、どうせお白洲で石でも抱かせなきゃ、素直に白状する野郎じゃあるめえ」
 お神楽の清吉はそう言って、骨張った顎を撫でるのです。元は三河島の馬鹿囃子に入っていたという清吉、いつの間にやら三輪の万七の子分になって、事ごとにガラッ八の向うを張っている岡っ引でした。
 ガラッ八は、清吉の嫌がらせを聞き流して、屑屋の周助の家に入りました。入口の土間と、六畳一と間、それにお勝手と便所が付いたきり、見る影もなく住み荒らした長屋ですが、入口の土間は手入れ次第では、小さな店にもなるように出来たもので、周助はそこへ買い溜めのガラクタで、問屋で値の出なかったものや、古道具屋に持込んで、いくらかの利潤を見ようとしたものを、順序も系統もなく積み重ねて置きました。
 大部分は皿、鉢、行灯、といった世帯道具の半端物ですが、中には大擬い物の高麗焼の壺、紫檀の半分欠け落ちた置物、某法眼の偽物の一軸、古九谷の贋物の花瓶――といった、物々しくもグロテスクな品物もあります。
 一歩六畳に踏込むと、――
「あッ」
 物馴れたガラッ八も顔を反けたほどでした。屑屋の周助――ガラッ八も顔見知りの親爺が、血潮の海の中にこと切れているのですが、得物の出刃庖丁は血潮の海の中に捨ててあります。
「八兄哥、この三軒長屋は、右隣が魚屋の伝吉で、左隣は蝮の銅六だ。二人とも昨夜は遅く帰ったから、何にも知らないって言い張るが、――血の凝った様子では、周助が殺されたのは夜中前だ、どっちか先に帰ったものが殺したに違えねえ――とこういう鑑定だ」
「どっちが先に帰ったんだ」
「それが判ら…

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