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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題149 遺言状
149 ゆいごんじょう
著者野村 胡堂
文字遣い新字新仮名
底本 「銭形平次捕物控(十五)茶碗割り」 嶋中文庫、嶋中書店
2005(平成17)年9月20日
初出「文藝讀物」文藝春秋社、1943(昭和18)年10月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者結城宏
公開 / 更新2020-02-27 / 2020-01-24
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 柳原の土手下、ちょうど御郡代屋敷前の滅法淋しいところに生首が一つ転がっておりました。
 朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騒ぎになり、係り合いの町役人や、野次馬まで加わって捜した揚句、間もなく首のない死骸が水際の藪の中から見つかり、それが見知り人があって、豊島町一丁目で公儀御用の紙問屋越前屋の大番頭清六と判ったのは、だいぶ陽が高くなってからでした。
 ガラッ八の八五郎の大袈裟な注進で、銭形平次が来たのはまだ検屍前。
「寄るな寄るな見世物じゃねエ」
 そんな調子で露払いをするガラッ八の後ろから平次は虔ましい顔を出して、初秋の陽の明るく当る筵を剥ぎました。
 殺された清六は五十七八、小作りの胡麻塩髷、典型的な番頭ですが、死骸の虐たらしさは、物馴れた平次にも顔を反けさせます。
「辻斬でしょうね、ひどい事をするじゃありませんか」
 八五郎は横から覗きました。
「…………」
 平次は黙って首を振りました。こんな下手な辻斬があるわけもありません。
「越前屋からは、まだ引取り手が来ませんよ。親分」
 八五郎はそれが不平そうです。
「ツイ二十日前に、主人が卒中で死んだばかりだから、無理もないが――」
 町役人は弁解がましく口を入れました。そういえば越前屋の主人佐兵衛が急死したことは、平次もガラッ八も聴いておりました。重なる不幸で、越前屋の混雑は思いやられます。
「――そのうえ店のこと万端取仕切っている甥の吉三郎さんが、大坂へ商売用で行っているとかで、迎えの飛脚を出す騒ぎでしたよ」
 町役人は更に注を入れました。
「濡れ手拭を持っているところを見ると、風呂の帰りでしょうね。親分」
「鬢も濡れているよ。――風呂の帰りに、わざわざ柳原河岸へ出るのは変じゃないか。それに――」
 平次は首を傾けております。
「何か変なことがあったんですか、親分」
「変なことだらけだ」
「首を斬るのは穏やかじゃねエ。辻斬でなくても、下手人は武家に決ってるようなものですね」
 と八五郎。
「穏やかな人殺しというのはないだろうが、――この下手人は武家じゃないよ」
「ヘエ――」
「やっとうの心得などのない人間だ」
「何だって、それじゃ首を斬り落したんでしょう」
「それが解れば一ぺんに下手人が挙がるよ」
「?」
「どうかしたら、一度絞め殺しておいて、それから首を斬り落したのかも知れない。生き身の人間がこんなに斬りさいなまれながら、黙っているわけはねエ、いくら柳原でも、家もあれば人も通る」
 平次は早くも事件の秘密に触れて行くのでした。
「親分、死骸の側にこんな物が落ちていたそうだが、何かの役に立ちますかえ」
 懐中煙草が一つ――印伝の叺に赤銅の虻の金具を付けた、見事な品を町役人は平次に渡しました。
「これは良いものが手に入った。どこに落ちていたんだ?」
「死骸の下敷になってましたよ」
「文句はねエな。死…

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