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右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID564
副題06 なぞの八卦見
06 なぞのはっけみ
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(一)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者湯地光弘
公開 / 更新1999-07-25 / 2014-09-17
長さの目安約 46 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1

 今回はその第六番てがらです。
 事件の端を発しましたのは、前回のにせ金事件がめでたく大団円となりましてから約半月ほどたってからのことでしたが、半月のちといえばもちろんもう月は変わって、文月七月です。ご承知のごとく、昔は太陰暦でございますから、現今とはちょうどひと月おくれで、だから七月といえば、まさに炎熱のまっさいちゅうです。それがまたどうしたことか目もあてられない酷暑つづきで、そのときのお奉行所お日誌によると、この年炎暑きびしく、相撲取り的にて三人蒸し死んだるものある由、と書かれてありますから、それだけでもどのくらいの暑さだったかが想像がつくことと思いますが、わがむっつり右門とて生身の人間である以上、暑いときはやっぱり人並みに暑いんだから、西日がやっとかげっていくらか涼風の出かかったお組屋敷のぬれ縁ぎわに大あぐらをかきながら、しきりとうちわを使っていると、大いそぎで今お湯をすましたばっかりといったかっこうで、せかせかと裏庭口から姿を見せたものは、例のおしゃべり屋伝六でありました。それというのは、いつまでたっても変人の右門が、もう少しこのほうだけは人並みすぎるほうがいいと思われるに、いっこう、女げをよせつけようとしないものですから、右門のこととなるとむやみと世話をしたがる伝六が、このごろずっとお通いで、朝晩のお勝手を取りしきっているからのことですが、だからわが家のごとく無遠慮に上がってくると、いっぱしの板番になったような顔つきで、ざっくばらんに始めました。
「米びつがけさでからだから、清水屋の小僧が来たらおいいなせえよっていっといたはずですが、まさかお忘れじゃねえでしょうね」
 すると、右門という男は、どうもどこまで変わり者だか、すましていったものです。
「ねぼけんない。おらそんなこたあ知らねえよ」
「えッ。ねぼけんないっですって……? あきれちまうな。だんなのおなかにへえる品物ですぜ」
「でも、きさま、おれがきのうこの暑っくるしいのに河岸の物ばかりでも気がきかねえから、たまにゃ冷ややっこでも食わせろといったら、ご亭主っていうもな、お勝手のことなんぞへ口出すもんじゃねえっていったじゃねえか」
 ほんとうにきのうそんなことをいったものか、めったにしっぽを巻いたことのない伝六も一本参ったとみえて、頭をかきながら苦笑いをしていましたが、するとちょうどそのときでありました。不意に、するすると忍び込みでもするかのように表玄関の格子戸があいたんで――。
「おやッ、変なあけ方をしやあがるな。いかにむてっぽうな野郎でも、まさか右門のだんなのところへ、こそどろにへえろうなんてんじゃあるめえね」
 夕暮れどきではあり、いかにもそのあけ方が少しおかしかったものでしたから、いぶかって伝六が出ていったようでしたが、まもなく引っ返してくると、いつもの口調でやや不平がまし…

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