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本の未来
ほんのみらい
作品ID56499
著者富田 倫生
文字遣い新字新仮名
底本 「本の未来」 アスキー
1997(平成9)年3月1日
入力者富田倫生
校正者富田倫生
公開 / 更新2013-08-17 / 2014-09-16
長さの目安約 310 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


友愛と熱で、いつも私たちをあたためた
平野欣三郎に


[#改ページ]


まえがき


 新しい本の話をしよう。
 未来の本の夢を見よう。
 ずいぶん長い間、私たちは本の未来について語らないできた。ヨハネス・グーテンベルクが印刷の技術をまとめたのが、十五世紀の半ば。だからもう、新しい本を語るのをやめて、五百年以上にもなる。
 あの頃天の中心だった地球は、太陽系の第三惑星になり果てた。光の波動を伝えていたエーテルも、今はきれいさっぱり消え去った。それほどの長い時が過ぎてなお、本は変わらなかった。
 時間をかけて練り上げた考えや物語をおさめる、読みやすくて扱いやすい最良の器は、紙を束ねて作った冊子であり続けた。
 けれど今こそ、本の未来について語るべき時だ。

 私たちは、たいていの人が自分のコンピューターを持って、そのすべてがネットワークされる新しい世界に向かいつつある。国の境や距離の重みが薄れ、望むなら、地球の上の誰とでも大脳皮質を直結できるようになるだろう。
 誰も経験したことのない、わくわくするような奇妙な世界が待っている。
 人々の考えや思いや表現は、電子の流れに乗って一瞬に地球を駆けめぐる。そうなってなお、考えをおさめる器が紙の冊子であり続けるとは、私には思えない。
 本はきっと、新しい姿を見つけるに違いない。

 そんな本の新しい姿を、私は夢見たいと思う。

 たとえば私が胸に描くのは、青空の本だ。
 高く澄んだ空に虹色の熱気球で舞い上がった魂が、雲のチョークで大きく書き記す。
「私はここにいます」
 控えめにそうささやく声が耳に届いたら、その場でただ見上げればよい。
 本はいつも空にいて、誰かが読み始めるのを待っている。

 青空の本は時に、山や谷を越えて、高くこだまを響かせる。
 読む人の問い掛けが手に余るとき、未来の本は仲間たちの力を借りる。
 たずねる声が大空を翔ると、彼方から答える声が渡ってくる。
 新しい本の新しい頁が開かれ、問い掛けと答えのハーモニーが空を覆う。

 夢見ることが許されるなら、あなたは胸に、どんな新しい本を開くだろう。
 歌う本だろうか。
 語る本だろうか。
 動き出す絵本、読む者を劇中に誘う物語。
 それとも、あなた一人のために書かれた本だろうか。
 思い描けるなら、夢はきっと未来の本に変わる。

 もしもあなたが聞いてくれるなら、私はそんな新しい本の話をしたい。
 これから私たちが開くことになる、未来の本の話をしたいと思う。
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第一章 面白うてやがて悲しき本の世界



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読みたい本が読めない事情
 あなたには今、読みたい本がありますか?
 本との出合いに、あなたは恵まれているでしょうか。

 これまでに私は、いろいろな…

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