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フランセスの顔
フランセスのかお
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「生まれ出づる悩み」 角川文庫、角川書店
1969(昭和44)年5月10日
初出「新家庭 第一巻第一号」玄文社、1916(大正5)年3月1日
入力者呑天
校正者えにしだ
公開 / 更新2019-03-04 / 2019-02-22
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 たけなわな秋のある一夜。
 光の綾を織り出した星々の地色は、底光りのする大空の紺青だった。その大空は地の果てから地の果てにまで広がっていた[#「広がっていた」は底本では「拡がっていた」]。
 淋しく枯れ渡った一叢の黄金色の玉蜀黍[#「玉蜀黍」は底本では「玉蜀黎」]、細い蔓――その蔓はもう霜枯れていた――から奇蹟のように育ち上がった大きな真赤なパムプキン。最後の審判の喇叭でも待つように、ささやきもせず立ち連なった黄葉の林。それらの秋のシンボルを静かに乗せて暗に包ませた大地の色は、鈍色の[#「鈍色の」は底本では「鈍色に」]黒ずんだ紫だった。そのたけなわな秋の一夜のこと。
 私たちは彼女の家に近づいた。末の妹のカロラインが、つきまとわる[#「つきまとわる」は底本では「つきまつわる」]サン・ベルナール種のレックスを押しのけながら、逸早く戸を開けると、石油ランプの琥珀色の光が焔の剣のような一筋のまぶしさを広縁に投げた。私と連れ立った彼女の兄たちと妹とは、孤独の客のいるのも忘れて、蛾のように光と父母とを目がけて駆け込んだ。私は少し当惑してはいるのをためらった。ばね仕掛けであるはずの戸が自然にしまらないのを不思議に思ってふと気がつくと、彼女が静かにハンドルを握りながら、ほほえんで立っていた。私は彼女にはいれと言った。彼女は黙ったまま軽くかぶりをふって、少しはにかみながらそれでもじっと私の目を見詰めて動こうとはしなかった。私は心から嬉しく思って先にはいった。その瞬間から私は彼女を強く愛した。
 フランセス――しかし人々は彼女を愛してファニーと呼ぶのだ。
 その夜は興ある座談に時が早く移った。ファニーとカロラインの眠る時が来た。ブロンドの巻髪を持ったカロラインはもう眠がった。栗色の癖のない髪をアメリカ印度人のように真中から分けて耳の下でぶつりと切ったファニーの眼はまだ堅かった。ファニーはどうしてもまだ寝ないと言い張った。齢をとったにこやかな母が怒るまねをして見せた。ファニーは父の方に訴えるような眼つきを投げたが、とうとう従順に母の膝に頭を埋めた。母は二人の童女の項に軽く手を置き添えて、口の中で小さな祝祷を捧げてやった報酬に、まず二人から寝前の接吻を受け取った。それから父と兄らとが接吻を受けた。二人が二階にかけ上がろうとすると母が呼びとめて、お客様にも挨拶をするものだと軽くたしなめた。カロラインは飛んで帰ってきて私と握手した。ファニーは――ファニーは頸飾りのレースだけが眼立つほど影になった室の隅から軽く頸をかしげて微笑を送ってよこした。そして二人は押し合いへし合いしながらがたがたと小さい階子段を[#「階子段を」は底本では「階子を」]かけ上って行った。その賑やかな音の中に「ファニーのはにかみ屋め、いたずら千万なくせに」と言う父のひとり言がささやかれた。
       *    …

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