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詩二つ
しふたつ
作品ID56504
著者梶井 基次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「梶井基次郎全集 全一巻」 ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年8月26日
入力者呑天
校正者川山隆
公開 / 更新2015-01-12 / 2015-02-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


秘やかな楽しみ

一顆の檸檬を買い来て、
そを玩ぶ男あり、
電車の中にはマントの上に、
道行く時は手拭の間に、
そを見 そを嗅げば、
嬉しさ心に充つ、
悲しくも友に離りて
ひとり 唯独り 我が立つは丸善の洋書棚の前、
セザンヌはなく、レンブラントはもち去られ、
マチス 心をよろこばさず、
独り 唯ひとり、心に浮ぶ楽しみ、
秘やかにレモンを探り、
色のよき 本を積み重ね、
その上にレモンをのせて見る、
ひとり唯ひとり数歩へだたり
それを眺む、美しきかな、
丸善のほこりの中に、一顆のレモン澄みわたる、
ほほえまいて またそれをとる、冷さは熱ある手に快く
その匂いはやめる胸にしみ入る、
奇しきことぞ 丸善の棚に澄むはレモン
企らみてその前を去り
ほほえみて それを見ず、
[#改ページ]

秋の日の下

秋の日の下、物思いの午後、芝生の上。
取り出せるは、皺になれる敷島の袋、
残れる一本を、くわえて、火を点ず、
残れる火を、さて敷島の袋にうつす、
秋の日の下、物思いのひるさがり、芝生の上、
めらめらと、袋は燃ゆらし 灰となりゆく、
あわれ、我が肺もこの袋の如、
日に夜に蝕まれゆくか、
秋の日の下、くゆらす煙草のいとからし。
(大正十一年)



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