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『グリム童話集』序
『ぐりむどうわしゅう』じょ
作品ID56508
著者金田 鬼一
文字遣い新字新仮名
底本 「完訳 グリム童話集(一)〔全五冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1979(昭和54)年7月16日
入力者sogo
校正者noriko saito
公開 / 更新2018-11-01 / 2019-08-08
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

『グリム童話』は児童の世界の聖典である。『グリム童話』は「久遠の若さ」に生きる人間の心の糧である。『グリム童話集』を移植するのは、わが国民に世界最良書の一つを提供することである。
 グリムの「児童および家庭お伽噺」は、いずれ劣らぬ二人兄弟のドイツの大学者、ヤーコップ・ルードヴィヒ・グリム(一七八五―一八六三年)とウィルヘルム・カール・グリム(一七八六―一八五九年)とが、「ドイツのもの」に対する徹底的の愛着心から、ドイツの民間に口から耳へと生きている古い「おはなし」を、その散逸または変形するにさきだってあまねく集録したもので、筆者は、山村市井の老媼などの口からきいたままを、内容はもとより形式においても極めて忠実に書きくだすことを心がけた。もっとも、叙述の曖昧な点はこれを明快な描写となし、資料が断片的な場合は不完全な類話を巧みに按配して無縫の天衣を織りだしたのではあるが、総じて提供せられた材料には、それが純ドイツのものであるかぎりは、すこしの手加減も加えないことを原則とした。かくしてできあがったものは、グリム兄弟両人の該博なドイツ古代学の知識と、特に筆録を受けもった弟ウィルヘルムの、素朴な筆致をそなえて、しかも一言一句むだのない名文とによって、世界における最もおもしろい本の一つであり、同時に、民俗学研究の先駆として学術的にもすこぶる貴重な文献となった。
『グリム童話集』が始めて出版せられたのは、わが国の文化九年、すなわち西暦一八一二年(第一巻)および一八一五年(第二巻)で、話の数は一五五篇に過ぎなかった。ここには、その後の決定版をさらに増補して、計二四八篇を移植する。
 かのムゼーウスを鼻祖とする「おはなし」の型(制作童話)は、題材を口碑にかりて作者自ら空想をほしいままにするもので、筆者自身がいわば口碑伝説の創造者ともなり得るところから、時に教訓、時に諷刺を目的とするような「おはなし」が生まれることもあるが、グリムにあっては筆者の作為は毫も加わっておらぬ。ところで、ここに「おはなし」と称するものは、ドイツ語の「メールヒェン」を指すのであるが、訳者はこの同じメールヒェンなる語を、本書の標題におけるごとく「童話」とも翻訳し、あるいはまた本序文のはじめにかかげた原著の逐語訳標題にみるごとく、これに「おとぎばなし」という訳語をもあてている。これについては、一言説明しておく必要がある。
 元来「メールヒェン」というのは、「詩人の空想で作りだされた物語、ことに魔ものの世界の物語であって、現実生活の諸条件に拘束せられない驚異的な事件を語り、人は老若貴賤の別なく、それが信用のできない話とは知りつつも、おもしろがって聴くもの」であって、他の国語にはこれに該当する成語がなく、学術語としては各国ともこのドイツ原語をそのまま採用しているのであるが、「メールヒェン」を語原的に検討してみる…

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