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ペスト王
ぺすとおう
作品ID56517
副題寓意を含める物語
ぐういをふくめるものがたり
原題KING PEST
著者ポー エドガー・アラン
翻訳者佐々木 直次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「アッシャア家の崩壊」 角川文庫、角川書店
1951(昭和26)年10月15日
入力者江村秀之
校正者まつもこ
公開 / 更新2021-10-07 / 2021-09-27
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

神々は人民にては嫌悪し給うことをも
王には堪え忍びまたよく許し給う。
バックハスト1『フェレックスとポレックス』

 騎士道華やかなりしエドワード三世2の治世年間、十月のある夜の十二時頃のこと、スロイス3とテムズ河との間を通うている商船で、その時テムズ河に碇泊していた「フリー・アンド・イージー丸」の乗組員に属する二人の水夫は、ロンドンの聖アンドルー教区にある一軒の酒店の酒場に自分たちが腰をかけているのに気がついて大いに驚いた。――この酒店には「陽気な船乗り」の画が招牌としてかけてあった。
 その部屋は、造りがまずく、煤で黒くなっていて、天井が低く、すべてその他の点でその時代のそのような場所と大体同じようなものではあったが、それでもその中のここかしこに陣取っている変てこな飲み助連中の評判では、十分によくその目的にかなっているものなのであった。
 これらの連中の中ではわが二人の水夫諸君は、たとい最も人目につく者ではなくとも、確かに最も興味のある連中であったのだ。
 その連れの男が「レッグズ4」という特性を表わす名前で話しかけている、年上らしく見える方の男は、また二人の中ではずっと背の高い方でもあった。身の丈は六フィート半もあるだろう。肩が習慣的に猫背になっているのは、そんなにめっぽうに背が高いために必然の結果としてそうなったものらしく思われる。だが、この高さの過剰も、他の点の不足と差引勘定するとむしろ足りないくらいだった。この男はひどく痩せているのだ。で、仲間の者たちが言ったように、酔っ払っている時にはマストの先の吹流しにできそうだったし、素面の時には第二斜檣5の代りになりそうだった。しかし、こういうような常談は明らかに、いまだかつてこの船乗りの哄笑筋肉に何の効果をも生じたことがなかった。頬骨が秀でて、鉤鼻は大きく、頤はこけて、下顎は下り、白い大きな眼が突き出ている彼の顔の表情は、一般の事物に対する一種の頑固な無頓着さを示しているとはいえ、あらゆる模倣や叙述なども及ばないくらいに、実にしかつめらしいまじめくさったものだった。
 若い方の水夫は、その外観ではどこからどこまで、連れの男の正反対であった。丈は四フィートも超えてはいまい。二本のずんぐりした弓なりに曲った脚が、でぶでぶのかさばった体を支えている。そして並はずれて大きな拳を先につけた非常に短くて太い腕が、正覚坊の鰭のように脇からぶら下って揺れている。はっきりしない色の小さな眼は、顔のずっと奥の方で瞬きをしている。鼻は、まるまる肥えて盛り上った赤い顔を包む肉魂の中に埋まっている。そして厚い上唇は、恐悦至極といった様子で、それより一層厚い下唇の上にのっかっている。その様子は、その唇の所有者が時々それをおなめになる習慣によって、大いに強められるのだ。この男は明らかにかの背の高い仲間の男を、なかば驚嘆の、なかば嘲弄…

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