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白馬岳
しろうまだけ |
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作品ID | 56548 |
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著者 | 木暮 理太郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「山の憶い出 下」 平凡社ライブラリー、平凡社 1999(平成11)年7月15日初版第1刷 |
初出 | 「教材講座」1927(昭和2)年9月 |
入力者 | 栗原晶子 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2014-10-18 / 2020-09-06 |
長さの目安 | 約 28 ページ(500字/頁で計算) |
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位置
今では日本北アルプスの名で広く世に知られている飛騨山脈は、加藤理学士の説に拠ると、凡そ南十度西より北十度東に向って並走せる数条の連脈から成っているものであるという。其連脈の一に白馬山脈というのがある。立山山脈との対称上から又後立山山脈とも呼ばれ、飛騨山脈中の最も長い山脈で、北は日本海岸の親不知附近から起り、越中と越後及び信濃との国境を南走して遠く飛騨国内に達しているが、中に就て越中、越後及び信濃の三国界から飛騨、信濃及び越中の三国界附近に至る、直径にして五十五粁約十四里の間が主要部ともいう可き部分であって、最高二千九百九十米、最低二千百八十米、平均高度は二千六百二十米に及んでいる。そして二千八百米を超えている峰は十五、六座を下らないのである。それが松本平の西の縁から大屏風を建てたように急に聳え立っているので、地形の相違の著しい為に、二千五百米以下に於ては中山性の地貌と称す可きものに属するに拘わらず、恰も大山脈を見るが如き観を呈し、加うるに盛夏八月の候も尚お純白に輝く雪田が山の額を飾り、雪渓が幾条となく山肌に象眼されているので、頂上附近の高山性地貌と相俟って、一層崇高偉大なる感じを起さしめるのである。
白馬山脈の最高峰は、中央より稍や南に偏している黒岳であって、水晶や紫水晶などを産する所から水晶山の名もある。三角点の位置は絶頂より十米余も低い峰に在るので、真の高さは恐らく二千九百九十米を下ることはあるまい。之に次ぐものは主要部の北端に在る白馬岳で、海抜高距二千九百三十三米、最高点は長野県北安曇郡と富山県下新川郡に跨り、東微北に向って行くこと十町余りで山脈は二岐し、其間に新潟県西頸城郡を抱いている。で、厳密に言うと、白馬岳は一部分しか新潟県には跨っていないことになる。松本市から越後の糸魚川町に通ずる糸魚川街道は、平地から此山脈を仰望するに最も適した街道であって、五月下旬、麓の新緑が漸く濃やかならんとする頃、其上に未だ冬の粧を脱しない雪山の姿を望むことは、我国の山岳景観中に在りて優れたるものの一であるというてよい。
地質
白馬山脈を構成する岩石は、大体に於て花崗岩又は之に類似した深造岩であるが、新火山岩が其間に噴出し、又古生層の露出せる所も少なくない。然し調査が充分に行き届いている訳ではないから、精細に探究された暁には、新に発見する所が少なくないであろうと思う。白馬岳の近傍は花崗岩、蛇紋岩、古生層、[#挿絵]岩及び新火山岩などで構成されている。そして頂上附近は概して東側は古生層、西側は[#挿絵]岩から成り、中央の一部に蛇紋岩の認められることが、地質調査所の地図に明示されている。
白馬岳の南には杓子岳があり、更に其南に接して鑓ヶ岳がある、仮に之を白馬三山と唱え、共に同じ地質から成っている。
昭和十二年二月東京地学協会発行の「白馬岳」図幅に拠れば…