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魔術師
まじゅつし
作品ID56659
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年11月20日
初出「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
入力者門田裕志
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2022-07-28 / 2022-06-26
長さの目安約 283 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

作者の言葉

 わが明智小五郎は、遂に彼の生涯での最大強敵に相対した。ここに『蜘蛛男』の理智を越えて変幻自在なる魔術がある。魔術師は看客の目の前で生きた女を胴切りにしたり、箱詰めの小女を剣の芋刺しにしたり、彼女を殺害して鮮血したたる生首を転がして見せたり、或は立所に人を眠らせ、自由自在の暗示を与え、或は他人の心中持物を看破するなど、あらゆる奇怪事を行うことが出来る。
 兇賊がこれらの怪技の妙奥を会得していた場合を想像せよ。流石の名探偵明智小五郎もこの魔術師の心理的或は物理的欺瞞には、いたく悩まされねばならなかった。
 魔術兇賊とは何者であるか。それがどんなに意外な人物であるか。又彼はそもそも如何なる悪業を企んだのか。そして、明智小五郎はよくこの大敵に打勝つことが出来たか否か。名探偵と魔術師の争闘こそ見ものである。
「講談倶楽部」昭和五年六月号より
[#改ページ]

美しき友

 新聞紙は毎日の様に新しい犯罪事件を報道する。世人は慣れっこになってしまって、又かという様な顔をして、その一つ毎に、さして驚きもしないけれど、静かに考えて見ると、何と騒々しく、いまわしい世の中であろう。広い東京とは云いながら、三つや四つ、血なまぐさい、震え上る様な犯罪の行われぬ日とてはない。今の世に、十九世紀の昔語りにでもあり相な、貰い子殺しの部落が現存するかと思うと、真実の弟を叩き殺して、つい門前の土中に埋め、その御手伝いをさせたもう一人の弟を狂人に仕立てて、気違い病院に放り込むなど、まるで涙香小史飜案する所の、フランス探偵小説みた様な、奇怪千万な犯罪すら行われているのだ。
 だが、それらは世に顕われたる犯罪である。ある犯罪学者が云った様に、露顕する犯罪は十中二三に過ぎないものとしたならば、我々が日々の新聞で見ているよりも、一倍物凄く戦慄すべき大犯罪が、どれ程多く、つい知らぬ間に行われているか、恐らく想像の外であろう。例えば、あなたは、そうして小説を読みながら、すぐ壁一重のお隣で、今現にどんな事が行われているか、とゾッとして耳をすまして見る様なことはありませんか。本当に恐ろしいことだけれど、そんな邪推でさえも、この東京では決して無理とは云えないのです。
 で、素人探偵の明智小五郎が、「蜘蛛男」事件を解決して、骨休めの休養をする間が、たった十日ばかりしかなかったというのも、小説家の作り話ではない。つまり、蜘蛛男が、例のパノラマ地獄で無残の死をとげてから、やっと十日たつかたたぬ内に、この「魔術師」事件の第一の殺人が行われ、明智はのっぴきならぬ依頼によって、又その事件にかかり合わねばならぬ仕儀となったのである。
 だが、彼は素人探偵とは云い条、看板を出してそれで生活している訳ではないのだから、いやだと思えば、別に差出がましく警察の御手伝いをする義務もない訳だが、この「魔術師」事件には何かし…

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