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少年探偵団
しょうねんたんていだん |
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作品ID | 56669 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「怪人二十面相/少年探偵団」 江戸川乱歩推理文庫、講談社 1987(昭和62)年9月25日 |
初出 | 「少年倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月号~12月号 |
入力者 | sogo |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2016-04-23 / 2016-03-04 |
長さの目安 | 約 208 ページ(500字/頁で計算) |
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黒い魔物
そいつは全身、墨を塗ったような、おそろしくまっ黒なやつだということでした。
「黒い魔物」のうわさは、もう、東京中にひろがっていましたけれど、ふしぎにも、はっきり、そいつの正体を見きわめた人は、だれもありませんでした。
そいつは、暗やみの中へしか姿をあらわしませんので、何かしら、やみの中に、やみと同じ色のものが、もやもやと、うごめいていることはわかっても、それがどんな男であるか、あるいは女であるか、おとななのか子どもなのかさえ、はっきりとはわからないのだということです。
あるさびしいやしき町の夜番のおじさんが、長い黒板塀の前を、例のひょうし木をたたきながら歩いていますと、その黒板塀の一部分が、ちぎれでもしたように、板塀とまったく同じ色をした人間のようなものが、ヒョロヒョロと道のまんなかへ姿をあらわし、おじさんのちょうちんの前で、まっ白な歯をむきだして、ケラケラと笑ったかと思うと、サーッと黒い風のように、どこかへ走りさってしまったということでした。
夜番のおじさんは、朝になって、みんなにそのことを話して聞かせましたが、そいつの姿が、あまりまっ黒なものですから、まるで白い歯ばかりが宙にういて笑っているようで、あんなきみの悪いことはなかったと、まだ青い顔をして、さも、おそろしそうに、ソッと、うしろをふりむきながら、話すのでした。
あるやみの晩に、隅田川をくだっていたひとりの船頭が、自分の船のそばにみょうな波がたっているのに気づきました。
星もないやみ夜のことで、川水は墨のようにまっ黒でした。ただ櫓が水を切るごとに、うす白い波がたつばかりです。ところが、その櫓の波とはべつに、船ばたにたえず、ふしぎな白波がたっていたではありませんか。
まるで人が泳いでいるような波でした。しかし、ただ、そういう形の波が見えるばかりで、人間の姿は、少しも目にとまらないのです。
船頭は、あまりのふしぎさに、ゾーッと背すじへ水をあびせられたような気がしたといいます。でも、やせがまんをだして、大きな声で、その姿の見えない泳ぎ手に、どなりつけたということです。
「オーイ、そこに泳いでいるのは、だれだっ。」
すると、水をかくような白い波がちょっと止まって、ちょうど、その目に見えないやつの顔のあるへんに、白いものがあらわれたといいます。
よく見ると、その白いものは人間の前歯でした。白い前歯だけが、黒い水の上にフワフワとただよって、ケラケラと、例のぶきみな声で笑いだしたというのです。
船頭は、あまりのおそろしさに、もうむがむちゅうで、あとをも見ずに船をこいで逃げだしたということです。
また、こんなおかしい話もありました。
ある月の美しい晩、上野公園の広っぱにたたずんで、月をながめていた、ひとりの大学生が、ふと気がつくと、足もとの地面に、自分の影が黒々とうつっているので…