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奇面城の秘密
きめんじょうのひみつ
作品ID56683
著者江戸川 乱歩
文字遣い新字新仮名
底本 「奇面城の秘密/夜光人間」 江戸川乱歩推理文庫、講談社
1988(昭和63)年6月8日
初出「少年クラブ」1958(昭和33)年1月号~12月号
入力者sogo
校正者茅宮君子
公開 / 更新2017-11-13 / 2017-10-25
長さの目安約 154 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

怪人四十面相
 ある日、麹町高級アパートの明智探偵事務所へ、ひとりのりっぱな紳士がたずねてきました。それは東京の港区にすんでいる神山正夫という実業家で、たくさんの会社の重役をしている人でした。その神山さんが、明智探偵としたしい友だちの実業家の紹介状をもって、たずねてきたのです。
 明智は、神山さんを応接室にとおして、どういうご用かと聞きますと、神山さんは、心配そうな顔で、
「じつは、明智さん。わたしは怪人四十面相に、脅迫されているのです。」
と、恐ろしいことをいうのでした。
「エッ、怪人四十面相? そいつのもとの名は怪人二十面相ですね。しかし、そいつは、三月ばかりまえに、『宇宙怪人』の事件で、わたしがとらえて、いまは、刑務所にはいっているはずですが……。」
 明智探偵は、いぶかしそうにいいました。
「ところが、やつは、とっくに牢やぶりをしていたのです。」
「それはおかしい。あいつが牢やぶりをすれば、すぐにわたしの耳にはいるはずです。また、新聞にものるはずです。わたしは、まったく、そういうことを聞いておりません。」
「いや、それが、いまさっき、わかったのです。わたしは、この事件を警察にしらせました。警察でも、あなたとおなじようにふしぎに思って、刑務所をしらべたのです。すると、どうでしょう。四十面相はいつのまにか、まったくべつの人間といれかわっていたのです。
 四十面相によくにた男が、身がわりになって刑務所の独房にはいっていたのです。よくにているので、刑務所の係員も、いままで気づかないでいたというのです。いつ、どうして、このかえだまと、いれかわったかは、いくらしらべても、わからないのです。四十面相のかえだまになったやつは、ばかみたいな男で、なにをたずねても、エヘラ、エヘラ、笑っているばかりで、どうすることも、できないのだそうです。」
 それを聞くと明智探偵の顔が、ぐっと、ひきしまりました。いっこくも、すてておけない大事件です。
「ちょっと、お待ちください。」
 明智はそういって、いすから立つと、部屋のすみのデスクの上の電話器をとりました。そして、しばらく話していましたが、もとのいすにもどって、
「いま、警視庁の中村警部にたずねてみましたが、おっしゃるとおりです。四十面相はずっとまえから、刑務所をぬけ出していたらしいのです。……ところで、その四十面相が、あなたを脅迫したというのは?」
「まず、さいしょは、十日ばかりまえに、とつぜん、へんな声の電話がかかってきたのです。きみのわるい、しわがれ声でした。
 その声が、近いうちに、レンブラントのS夫人像をちょうだいにいくから、用心するがいいと、恐ろしいことをいって、ぷっつり電話をきってしまいました。
 レンブラントのS夫人像というのは、昨年わたしがフランスで手に入れてきたもので、数千万円のねうちの油絵です。これは、わたし…

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