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夜光人間
やこうにんげん |
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作品ID | 56684 |
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著者 | 江戸川 乱歩 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「奇面城の秘密/夜光人間」 江戸川乱歩推理文庫、講談社 1988(昭和63)年6月8日 |
初出 | 「少年」1958(昭和33)年1月号~12月号 |
入力者 | sogo |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2018-07-15 / 2018-06-29 |
長さの目安 | 約 153 ページ(500字/頁で計算) |
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きもだめしの会
名探偵明智小五郎の少年助手、小林芳雄君を団長とする少年探偵団は、小学校の五、六年生から中学の一、二年生までの少年二十人ほどで組織されていました。みんなが近くに住んでいるわけではなく、学校もちがっている少年がおおいので、この二十人が、いつでも集まるわけではありません。ときによって、事件にかんけいする少年たちの、顔ぶれがちがうのです。
みんな学生ですから、学校のある時間には、探偵のはたらきはできません。また、おうちで勉強もしなければなりません。ですから、日曜日のほかは、すこしの時間しか、はたらけないのです。
ことに、夜そとへ出て冒険をすることは、おとうさんやおかあさんがおゆるしにならないうちがおおいので、小林団長は、団員たちを夜あつめることは、できるだけしないようにしていました。おゆるしがでた少年たちだけを、七時か八時ごろまで集めることにして、それいじょう夜ふかしをしないように、こころがけていました。
でも、事件は、夜おこることがおおいので、夜ふけにはたらかなければならないときには、少年探偵団ではなくて、チンピラ別働隊をつかうことにしていました。チンピラ隊は、『アリの町』で、くずひろいをやっている少年たちで、夜の冒険なんか、へいきですから、つごうがいいのです。
少年探偵団員たちは、なにも事件がないときには、明智探偵事務所に集まって明智先生から、いろいろなことを、おそわっていました。ものごとを注意ぶかく見ることだとか、なにかのできごとの、ほんとうのいみを見やぶる、推理のやりかただとか、顕微鏡の見かた、化学の実験など、探偵にひつような法医学の知恵を、すこしずつおそわっているのでした。
また、からだをきたえるために、おおくの団員が柔道をならっていましたし、団員の井上一郎君のおとうさんが、もと拳闘選手だったので、井上君といっしょに拳闘をおそわっている団員もありました。
団員たちはときどき、『きもだめしの会』をひらくことがありました。江戸時代や明治時代の少年たちは、『試胆会』という、きもだめしの会を、よくやったものです。まっ暗な夜、さびしい墓地などを、ひとりで歩いて、勇気をためすのです。墓地のおくのほうに、木の札を何枚もおいて、ひとりずつ、そこへいって、札を持ってかえるのです。
むかしの少年たちは、お化けがほんとうにいると思っていたので、夜中に墓地をひとりで歩くのはこわくてたまらなかったのです。そのこわいことを、わざとやって、きもったまを強くしようとしたのです。
少年たちのなかには、いたずらものがいて、頭から白いきれをかぶって、墓のうしろにかくれていて、おどかしたりするので、ちいさい少年たちは、この試胆会のときには、びくびくものでした。しかし、それがやっぱり、むかしの少年たちの、心を強くするのに役にたったものです。
少年探偵団員には、お…