えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

アラスカの氷河
アラスカのひょうが
作品ID56731
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河」 岩波文庫、岩波書店
2002(平成14)年12月13日
初出「極北の氷の下の町」暮らしの手帖社、1966(昭和41)年
入力者門田裕志
校正者雪森
公開 / 更新2015-09-02 / 2015-08-26
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

アラスカ氷河の特徴

 アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。
 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讃美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が近づき得る氷河は、ほとんどアルプスの氷河に限られていた。それで氷河の美についての文献は、主として、アルプスの氷河についてのものが多かった。
 しかし氷河は、アルプスに限られたものではない。ヒマラヤやその周辺、いわゆる世界の屋根には、もっと壮大な氷河が、いくらもある。その外にも、南極大陸や、北極圏内のグリーンランドおよび、カナダ群島の北氷洋岸には、ヒマラヤをしのぐ壮麗な氷河が、たくさんある。
 これらの氷河の景観は、世人の想像をはるかに絶するもので、自然のふところに秘められた天工の美と、規模の壮大さとを、如実に示すものである。しかしその美に驚嘆することは、一般の人々にはできない。それは、現在のところはまだ、ごく少数の探検家たちだけが享受し得る天恵である。
 十年前までは、アラスカの氷河も、この部類に属していた。しかし定期航空路が、アラスカの沿岸に開かれた今日では、アラスカの氷河は、もはや探検家たちだけのものではなくなった。北方航空路をとる一般旅行者の眼にもふれるものとなった。
 アラスカの氷河の代表的なものは、太平洋岸にある。アンカレージから、海岸にそって、カナダの方へ伸びた海岸地帯がそれである。この氷河の特徴は、氷河の末端が、海岸のすぐ近くにまで達している点にある。そしてそのうちのかなりのものは、直接海に流れ入っている。
 先年、ディズニイの映画で、氷河が崩壊して、海へ落ち込む場面を見せてくれたものがあった。氷河の末端は、三十メートルを越す氷の断崖となって、大洋に迫っている。北海の荒浪は、その氷の絶壁の根を噛んで、はげしく飛沫を散らしている。
 この白い絶壁は、如何にも千古の懸崖の如き様相を呈しているが、しばらく見ているうちに、上部の方に、徐々に縦の割れ目が入り、やがて絶壁の一部は、数百個の氷の大塊に割れて、海に崩れ落ちる。まさに息をのむばかりの壮烈な景観であった。
 こういう景色は、特別に船をやとって、氷河の末端に近づかないと、見られない。しかしその遠望は、飛行機の上からも容易に見られる。ノースウエスト機も、日航機も、氷河地帯のすぐ近くの海上を飛ぶからである。
 もっとも天候が問題である。冬の間は、日が短かくて駄目、夏も北海特有の霧や、低い層雲が海上を埋め、氷河の上まで蔽っていることが多い。そういうときは、雲上飛行をつづけるだけで、何一つ見えない。ずっと北に延びたカナダロッキイの高峰が、雲上に頭を出していたら、それで満足するより仕方がない。
 アラスカの氷河は、このカナダロッキイに降った雪が、万年雪となり、それが渓谷にそって、太平洋側へ流れ下ったものであ…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko