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思い出す職人
おもいだすしょくにん
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「柳宗悦 民藝紀行」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日
初出「工藝 第百八号」1942(昭和17)年1月15日
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2020-03-21 / 2020-02-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

亡き一職人のために

 森数樹兄と一緒であった。昭和九年九月一日、奥羽地方民藝調査の折、秋田を訪うた。だがこの古い町に期待したほどの品物はなかった。黄八丈はあるが、本場のにはどうしても劣る。角館でも作るが、もう生産が薄い。漆器は能代に名を奪われている。(もっともこの黄味を帯びた春慶は、色や塗の関係から上品であっても弱々しく、形も冷たく、同じ品ならまだしも飛騨高山産の方が力がある)。秋田の町では岩七厘が目に止るが、これも町の産物ではなく北秋田郡阿仁の村で出来る。樺細工も町で見かけるがこれは角館が本場である。紫根染はあるが、これは花輪から来たのであろう。秋田が秋田で産む品を求めても、ほとんど得るものがない。大きな城下町であるし、北方の主要な都であったから、昔は相当に色々な品が作られたに違いない。だが伝統は早く消え去ったと見えて、眼に映る品はほとんどなかった。(あるいは未だ気附かないものがあるかも知れぬ。もしそうなら次の訪問の時是非廻り逢いたい)。
 町々を縫って廻ったが、かつぐ袋はまだ軽かった。ついに町はずれ近くなった時、ふと小さな鍛冶屋が目に止った。狭い店に低い棚を設け、品物がほんの少しまばらに置いてあった。往来の埃が店を一層貧乏くさくさせた。だが急に私の眼を射たものがある。念のため駆ける車を戻して店に寄った。何たる幸なことか、私は間違わなかった。それは美しい山刀である。背の角が隅入りで、厚みも多く形もよく、家の記なのかこれに瓢箪模様が一個入れてあった。柄もいい。だがそれだけではなかった。今まで見たどの五徳よりも美しい形のものがあった。その傍には最も可憐な吉原五徳が置かれてあった。土地では「鉄きょう」という。品物を見ると、どれもこれも一つの共通した特色があって、他の品とは明かに違う。作った者の形に対する優れた本能が感じられた。一つの金鎚にもそれが見出された。
 主人はまだ若かった。だが金物を鍛える頑丈な体の持主ではなかった。それだけにまたその代りに神経がよく働くのかも知れない。どの品にもぼんやりした所がない。私たちは展覧会のため、沢山買おうとしたが、店の持合せはわずかよりなかった。細々と営む店のことだから、材料がつづかないのか、買手が少ないのか、仕事が出来ないのか、品物の数は貧しかった。だが吾々は更に注文を頼まずにはいられないほど、それらの品物に心を惹かれた。受取証には秋田市保戸野表鉄砲町伊勢谷運吉と記してあった。
 展覧会に集った吾々の友達は皆、これらの品々を非常に悦んだ。私は知らない人々に売られてゆくのを惜んで、民藝館のためにまず幾つかを買い求めた。追注文はかなりの数に及んだ。リーチもその一人だった。リーチの考案になった書斎の火鉢には、特にその五徳を入れていたのを覚えている。英国で展覧すべき品々の中にもそれらのものは加っていた。私たちは再度督促し追注文を急…

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