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全羅紀行
ぜんらきこう
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「柳宗悦 民藝紀行」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日
初出「工藝 第八十二号」1938(昭和13)年3月15日
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2020-05-03 / 2020-04-28
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 昨年の旅はまた今年の旅を誘った。朝鮮を訪う人は多いが、私たちのような目的で足を運ぶ者は始めてかもしれぬ。古い物を求める人はあっても、新しい物を捜す者は絶えてなかった。だが古い習慣をよく守る朝鮮では、昔を受けてまだ無造作に美しい品物が方々で出来る。昔の朝鮮を見たいなら、今の朝鮮を見るに如くはない。私たちは今も続いて出来る品物に何があるか、それをもっと見たかったのである。更にまたどんな環境や心持から、それらの物が生れてくるのか、その根元をつきとめたかったのである。混り気のない朝鮮を見るためには奥地へと入らねばならない。
 今度選んだのは全羅南北の両道であった。そこは風土の利から材料に恵まれ、昔から様々な工藝品が発達していたのである。それに昨年行き得なかった土地でもあった。私たちはこの全羅行に長く憧れを抱いた。
 昭和十二年五月二日。早朝晴れ渡る半島の島々に迎えられて釜山に上る。京城からこの度の行を共にする浜口良光、土井浜一両氏と埠頭で落ち合う。朝鮮は何時来てもすがすがしい。去年もこの頃であった。今度また揃って出かけることの出来たのも大きな悦びである。
 まずこの地の蒐集家竹下隆平氏を訪ねた。竹下氏は朝鮮瓦の蒐集家として聞えているが、その蒐蔵の中には多くの見事な磚や瓦の外に、菓子型、筆筒、真鍮の香炉など優品が多い。いずれも忘れ難いものであった。随分数多くを見ている吾々も、思いがけないものに逢って、新しい興奮を覚える。
 町に出て今出来のものを漁った。これを集めて会を開く予定があるのである。釜山の陳列所では石の火鉢や小刀が目を引いた。早くも朝鮮に逢えて吾々は悦ぶ。内地の何処にでもあるようなこの陳列所の硝子戸の中に、こんなものを見つけることは、砂原で青草を見るようなものであった。欠かさずに行く市場へとまた足を運んだ。常設された小店で色々なものが見つかる。蒸器、黒釉の薬煎や蓋物、または大きな水甕など、買わないわけにはゆかない。近くの窯やまた遠くは谷城あたりからも来るようである。往来に全部一列に並べて勘定にかかる。早くも人だかりに逢う。六角の駄墨、その形や模様に惚れ込んで一包の凡てを購う。真鍮製の食物容れ、これは洗面器に誰でも悦ぶであろう、形のよいのがあれば見のがさずに選ぶ。常設の市場といっても、未だ幾分風土的な色彩が残っているのが嬉しい。こういう色の少しでも残った所を求めては終日歩き廻る。
 夕方晋州へと旅立つつもりであった。だが自動車の定員がわずか三名である。この不便な法規は私たちの計画を無駄にさせた。止むなく海路を選んで出発の時を待った。星の光が冴え始める頃、吾々一同は沿岸航路の小蒸汽船に投じた。船は閑麗水道の小さい港々を縫って全羅道木浦に向うものだ。月は早く落ちて海は暗かったが、黒々とした無数の島々を見送りながら早足に進んだ。

 五月三日。早暁麗水の湾に入る。…

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