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多々良の雑器
たたろうのざっき
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「柳宗悦 民藝紀行」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日
初出「民藝 第八十四号」1959(昭和34)年12月
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2019-10-13 / 2019-09-27
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 多々良(たたろう)のことを私が初めて耳にしたのは、昭和二十年頃、黒牟田の窯を訪ねた時、その村の円楽寺で一個の植木鉢を見たその時でした。それは張付紋の品で大変心を惹いたので、黒牟田のものかと尋ねましたら、多々良窯のものだという返事を受けました。そうして多々良はここから一里ほど奥にある窯だという話でした。残念にもその折はもう夕方で、多々良まで足をのばす事は出来ませんでした。
 爾来多々良のことをもっと知りたく、文献等を注意しましたが、ほとんど現われてきませんでした。おそらくこの窯は、数多くある北九州の窯場のうち、今まで最も忘れられている窯場の一つだと思われます。もっとも古窯蹟のあった場所としては知られているようですが現在もなお焼き続けていることについては、誰も記してはおりません。しかしこの窯のことが私の心を異常に引くようになったのは、もう八、九年も前に村岡景夫君と長崎を旅した時、とある骨董店のうす暗い一隅に大甕を見出した時からです。それは極めて大きな作で、見たこともない十字形の紋様が張り付けてあって、その上からうすく流釉がかけてあり、生焼けでぼんやりそれが見えていました。私はこの大作を早速買入れ、遠く東京まで輸送してもらいました。そうして円楽寺で見た植木鉢と、大変似通った所があるので、必定多々良のものだと考えるに至りました。後にこの大甕は、結局棺だということが分ったのです。私はかつて黒牟田から佐賀に通じる街道で、名もない窯場を訪れた事がありますが、そこではこの形の大甕を棺として焼いていましたので、右の一個も棺だという事が分ってきました。
 そのうち吾々の仲間で多々良窯を訪ねる人々が殖えてきて、この窯の話を聞く度に多々良への興味は次第につのってきましたが、とうとう縁が結ばれず、今日までに及んだのです。しかもこの三年間は病床で暮して来ましたので、ついに待望の訪窯を果すことが出来ずにいたのです。ところが夏民藝館の田中洋子さんが九州帰省の砌、土地の窯々を訪ねる旅に出たので、是非多々良に立寄ってもらうことを頼むのを忘れませんでした。しかしその時までは、果してどんな品をこの窯で焼いているのか、見当もつきませんでした。ところが田中さんが旅から帰ってきて届けてくれた品々を見るや、その不思議な性格に、いたく心を打たれたのです。極めて下々の質素な品々で、「湯たんぽ」とか「あんか」とか「塩入」とか(これを土地では塩笥といっているそうです)、その他様々な雑器なのです。このほかこの窯では徳利や雲助も作り、大ものでは甕類、井戸側、焼酎甕、捏鉢等も作るそうです。もっともこんな種類の品は、何も多々良に限っているわけではありませんが、その一切が全く他にない独特の形をしているので、一見するや大いに心を惹かれました。それに、まるで朝鮮の雑器そのままの感じさえあるのです。
 ところでこの十一月、たま…

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