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北支の民芸(放送講演)
ほくしのみんげいほうそうこうえん
作品ID56749
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「柳宗悦 民藝紀行」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日
初出「北支の民藝」東京放送局、1941(昭和16)年1月25日
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2021-03-21 / 2021-02-26
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「北支の民藝」というのが私に与えられた課題であります。民藝という言葉は最近広く用いらるるに至りましたが、時としては非常に誤った意味にとられていますので、最初にこの言葉の正しい意味を簡単に申述べる方が至当かと思われます。民藝というと、何か骨董品のことででもあるかのように思われがちであり、またしばしば趣味品という聯想を有たれるようでありますが、そういうものを指しているのでは毛頭ないのであります。元来民藝とは一般の民衆が日常用いる工藝品を指すのであります。即ち、日々の生活を助ける実用的な器物の世界をいうのであります。それゆえ生活の必需品であって、決して生活を離れた趣味品とか、骨董品とかを意味するのではないのであります。民藝品が重要な意義を齎らす所以は、これら日常の器物に、一番民族性の直接な表現があるからであります。民藝品の貧弱な国は、やがて国そのものの文化の低いことを意味します。それに民藝品は実用品であり、いわば働き手であるため、必然に健康な性質が呼ばれてくるのであって、この健康性ということこそ、やがて民藝の大きな美的内容を形造るものであります。さて、北方支那にはどんな民藝品があるか。大体一国の民藝は二つの大きな基礎の上に立って発展するものであって、第一はその国の自然であり、第二はその民族の歴史であります。支那の民藝を解するにはまずその自然の悠大さを考えに浮べねばなりません。御承知のように支那は厖大なる大陸であります。仮りに、山東から足を踏み入れるとしましょう。すぐ目前に果しもない平野が打ち続き、悠久な大黄河の流れがその間を貫いています。奥に至れば峰また峰であって、あの万里の長城がその頂きを縫うが如くに連らなっています。人文を編み込んだこの広大な自然景は、半島の朝鮮や、島国である日本などに見るべくもない光景であります。気候は激しく暑く、また激しく寒いのであります。かかる大自然を背景として、その間に暮す生活がどんなものであるかは、十分に想像のつくところであります。強いもの、鋭いもの、大きなもの、確かなもの、そういう性質がなくば、よくこの大自然に応じてゆくことができないでありましょう。
 だからその生活の一番直接な表現である民藝品が、如何にその性質において朝鮮や日本のものと異るかは当然のことであります。それはどこまでも地上に確乎たる存在を占める安定な形や、幅や、重さや、強さを現わしているのであります。それに支那の文化の足跡は遼遠であります。各時代の歴史はそれぞれの偉大な王侯や、英雄を有ち、また重く強い民衆をひかえているのであります。周や秦や漢や六朝、つづいて唐宋元、明清の各時代は、それぞれ巨大な歴史を有って居ります。そうして各方面において文化は高度に発達したのであります。それらの各々の時代はいずれも独自の表現を有って居りました。そうして多くの知慧と経験とから成る伝統が…

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