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陸中雑記
りくちゅうざっき
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「柳宗悦 民藝紀行」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日
初出「工藝 第百八号」1942(昭和17)年1月15日
入力者門田裕志
校正者砂場清隆
公開 / 更新2020-05-26 / 2020-04-28
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

御明神の風俗

 所は陸中の国である。盛岡から西へ六、七里も行くであろうか。雫石と呼ぶ村に入る。そこから更に進むと間もなく御明神の村に達する。余り訪う人もない所であるが、一度訪うた者には忘れ難い土地となろう。なぜならここに珍らしい風俗が残るからである。女たちが野良に出て働く時の身なりである。京の大原女は世にも名高いが、実はそれよりももっと美しく、もっと特色があり、もっと複雑である。日本の地方に見られる風俗としては真に特筆すべきものと思える。また世界の様々な女の身なりの中に入って、人目を殊に惹くものの一つと思える。なぜこんなにも珍らしく、見事な風俗が、移り変りの激しいこの世に残ったものか。私は何も昔を物語っているのではない。今も用いられる着物について述べているのである。それも年とった者だけが用いるのでは決してない。うら若い女たちが身につける風俗である。ちゃんと一と通りの身なりを整えるのに幾つの品が要るのか、とても数々が入り用なのである。
 編笠はまるでフランスの女たちの持ち物のようにさえ見える。草で編んで左右の端がいたくそる。縁を黒のびろうどでとり、それに五色の色糸で美しいかがりをする。頂きはしばしば四つの総で飾られてある。糸かがりが面白いのみか、笠の裏側がまた美しい。色々な布で色々な形の裏をつける。皆綿入で裁縫の手並をここでも見せる。日本の津々浦々には、様々な編笠がある。四国土佐の産で美しい細工のを見かけたが、御明神のはそれにも増して特色がある。
 笠だけでもおそらくこの村の名が記憶されるであろうが、それはその風俗のほんの一端である。多くは紺絣の細袖の着物を着、これに股引をはき前掛をかける。時としてこれらのものに刺子を施すのを悦ぶ。
 さてこの仕度が整えば日除けの背中当(ひごも)をつける。多くはみごで作り、側を紺の布でとりこれに糸や布で模様をつける。様々あるが多く見るのは扇面である。縁起を祝うのであろう。幅一尺ばかり丈は四尺に及ぼう。背中当としては珍らしい形である。余り他国では見かけない。
 それは背に当てるが、別に胸当をも作る。多くは紺地の布で、形は長方形である。そうして背と前とを帯紐で結ぶ。さて次には手甲(てうえ)をはめる。手甲の上には紺地に白糸で、草模様などの刺繍が見える。もとより包むのは両手のみではなく、頭布をかぶるのは言うを俟たない。それはかなり大きな「しはん」と呼ぶ布であって、頭のみならず、襟や顎の方までが被うようにされる。
 だが草々の身仕度はこれでしまいなのではない。最後に珍らしい二つのものを身につける。一つはあの浦島太郎がつけているような総々とした腰蓑(まえあて)である。多くは白の麻で編んだ紐から成る。稲刈の時根株をここで揃える。これに加えてもう一つ不思議なものを添える。それは凡そ五、六寸角のものであろうか。馬の毛で細かく編んだ一枚の網であ…

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