えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
英米笑話秀逸
えいべいしょうわしゅういつ |
|
作品ID | 56828 |
---|---|
著者 | 佐々木 邦 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の名随筆 別巻47 冗談」 作品社 1995(平成7)年1月25日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2015-02-26 / 2015-01-16 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
笑いを好む英米人は笑話を重んじる。食卓では笑話が社交を扶ける。カナダのユーモリスト、スチーヴン・リーコック氏はアメリカ笑話の秀逸として、次の「バッファローで投げ出された男」を推奨している。以下並べたものは、私自身の記憶による。疎開先で参考書がない。もっと優秀なものを伝え得ないのを遣憾とする。
バッファローで投げ出された男
「わしはナイヤガラの滝を見物するんだからバッファローで下りる。バッファローは何時頃になるかね?」
と一人の旅客が寝台車のボーイに訊いた。
「夜明けになります」
「よし、頼むよ。わしは寝坊だから、ナカ/\起きないかも知れない。構わないから、バッファローに着いたら、四の五の言わせず、この荷物ぐるみプラットフォームへ投り出してくれ給え」
「承知いたしました」
翌朝、旅客が目を覚ましたら、もう日は高く、バッファローはとうに通り越していた。ボーイを呼びつけて責めると、
「はてね、それじゃ先刻バッファローで投り出した人は誰だったろう」
親切もの
人の着物に綿や糸屑がついていると、とってやらなければ気の済まない親切ものがある。シンプソン君もその一人だ。或晩芝居へ行ったら、前の席の娘さんの襟から毛糸のほつれが長く出ていた。シンプソン君は手を伸ばしてつまんだが、幾ら手操っても尽きない。その中自分の手に毛糸のマリが出来てしまったので、あわてゝ劇場から逃げ出した。
シンプソン君の親切を受けた令嬢は翌朝姉に向ってこう言った。
「姉さん、変なことがあるものね。私、昨晩お芝居へ行って、チョッキをなくしてしまったわ」
好機会
新しい会堂が出来上って、牧師さんと教会書記が音響の試験をする。説教壇でピンを落した音が座席の隅々まで聞えるようにありたい。
「ずっと後の方へ行って立っていてくれたまえ。もっと後ろ」
と牧師さんは書記に命じて、聖書を読み始めた。
「よく聞えます」
「今度は、君、説教壇に立って、何か言って見給え」
書記が説教壇に上った。
「何を言いましょうか?」
「何でも思うことを言って見給え」
「物価はマス/\あがります。聞えますか?」
「聞える。聞える」
「しかるに私の俸給はこの三年間少しもあがっていません。先生、聞えますか?」
その上を行く
レストラントで魚のフライを命じたが、ひどく手間が取れる。
「おい。今更魚を釣りに行ったんじゃあるまいな?」
と客が皮肉を言ったら、ボーイもさるもの、
「いゝえ、唯今餌を掘っているところでございます」
遠大の志
夕刻人通りのないところで、小男のジョーンズ君は二人の男に追いつかれた。人相、風体、何れも面白くない。
「失礼ながら、銅貨を一枚拝借願えませんでしょうか?」
と大きい方の奴が小腰を屈めて申入れた。ジョーンズ君はこれなら大したこともないと思って安心した。ポケットから銅貨を一枚出し…