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安吾史譚
あんごしたん
副題02 道鏡童子
02 どうきょうどうじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集17」 ちくま文庫、筑摩書房
1990(平成2)年12月4日
初出「オール読物 第七巻第二号」1952(昭和27)年2月1日
入力者辻賢晃
校正者shiro
公開 / 更新2018-10-08 / 2018-09-28
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 国史上「威風高き女性」をもとめると数は多いが、私は高野天皇の威風が好きである。高野天皇は孝謙天皇のこと。孝謙天皇は重祚して称徳天皇とも申し、道鏡との関係は称徳天皇と称して後のことであるが、一人の天皇を孝謙とよび称徳とよぶのはわずらわしいからオクリ名の高野天皇を用いることに致します。
 男装して朝鮮へ攻めこんだという神功皇后は威風リンリンの最たるものかも知れないが、この御方の威風は女教祖的で、私は親しみがもてない。
 高野天皇の威風はあくまで女性そのもので、人間そのものである。しかも彼女の置かれた位置や四囲の事情というものは、女関白淀君と比べても、格調の高さがケタがちごう。歴代の天皇中でも、自然に占めた位置が「生きた神様」であった点、その父の聖武天皇とともに屈指の神格的存在であった。しかも、おのずから神格の位置におかれながら、人間そのものの足跡のみとどめているので、その威風には実にしたわしい可憐さがこもっているのである。
 天智天皇の歿後、皇太子と皇弟が戦って、皇弟が勝った。天武天皇である。天武帝の歿後、皇孫カル太子が幼少だったので、皇后が即位した。持統天皇である。次にカル太子の生母が即位して元明天皇。持統元明は姉妹で、天智天皇の娘である。
 相反する勢力を後楯にして兄系と弟が争い、弟が勝ったが、勝てる弟側が兄の娘を二代にわたって皇后にしたのは、背後の相反する勢力を統一するに役立ったようである。もっともうちつづいた三名の女帝が卓抜な才女であったせいもあろう。
 日本に中央政府と称するに足るものがつくられたのは、姉、妹、娘、とつづく三代の女帝のリレーによってであった。こうして、奈良の都ができたのである。今に伝わる皇室の国史もこのときできた。系図が作られたということはそのとき自家の礎が定まったことを意味するものであろう。
 姉、妹、その娘と三名も女だけでリレーしなければならなかったのは、皇孫カル太子が幼少だったのと、ようやく生長して即位したカル太子が若くして忽ち死に、したがって、その皇子はまたしても幼少であった。再び幼少から皇太子を育てあげなければならないので、ここに姉妹娘という三代の女帝のリレーが必要であった。
 女は「家」をまもる動物的な本能をもつものであるが、また家名とか、家にそなわる威風とかを甚しく希求する動物でもある。
 三代の才女のリレーによって、多くの男の土豪政治家、豪傑策師の果し得なかった中央政府が次第にハッキリと形づくられ定まってきた。
 こうして家も国もほぼ定まったとき、三代の才女のリレーの果に育てあげられたのが聖武天皇であった。三代の女帝がこの幼太子に何をのぞみ何を祈って育てあげたか、それはすでに云うまでもない。曰く、天下唯一の別格の子、太陽の子、そして地上の全ての主人、生きた神様、である。三代の女帝の必死の作業は、中央政府の確立とともに、…

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