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雲母集
きららしゅう |
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作品ID | 56858 |
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著者 | 北原 白秋 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「白秋全集 7」 岩波書店 1985(昭和60)年3月5日 |
入力者 | 光森裕樹 |
校正者 | 岡村和彦 |
公開 / 更新 | 2014-10-11 / 2014-09-15 |
長さの目安 | 約 38 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
きらら。 雲母。うんも。玉のたぐひにて、五色のひかりあり。深山の石の間にいでくるものにて、紙をかさねたるごとくかさなりあひて、剥げば、よくはがれて、うすく、紙のやうになれども、火にいれてもやけず。水にいれてもぬるゝことなし。和名(雲母和名、[#改行]岐良々)
『日本大辞林』
[#改ページ]
[#ページの左右中央]
新生 序歌
[#改ページ]
力
煌々と光りて動く山ひとつ押し傾けて来る力はも
卵
煌々と光りて深き巣のなかは卵ばつかりつまりけるかも
大きなる手があらはれて昼深し上から卵をつかみけるかも
かなしきは春画の上にころがれる七面鳥の卵なりけり
大鴉
大鴉一羽渚に黙ふかしうしろにうごく漣の列
大鴉一羽地に下り昼深しそれを眺めてまた一羽来し
昼渚人し見えねば大鴉はつたりと雌を圧へぬるかも
大鴉渚歩けど麗らなる波はそこまでとどかざりけり
寂光の浜に群れゐる大鴉それの真上にまた一羽来し
一羽飛び二羽飛び三羽飛び四羽五羽飛び大鴉いちどに飛びにけるかも
大空の下にしまし伏したり病鴉生きて飛び立つ最後に一羽
犬
水の面に白きむく犬姿うつし口には燃ゆる紅の肉
丸木橋の上と下とを真白きもの煌々として通りけるかも
魚介三品
水の面に光ひそまり昼深しぬつと海亀息吹きにたり
日ざかりは巌を動かす海蛆もぱつたりと息をひそめけるかも
鱶は大地の上は歩かねばそこにごろりところがりにけり
穴
ふかぶかと眼ひらけばどん底に何か光りて渦巻くらしも
薔薇
盤石に圧し伏せられし薔薇の花石をはねのけ照深みかも
雲
大空に何も無ければ入道雲むくりむくりと湧きにけるかも
[#改丁]
[#ページの左右中央]
流離抄
[#改ページ]
三崎哀傷歌
大正二年一月二日、哀傷のあまりただひとり海を越えて三崎に渡る。淹留旬日、幸に命ありてひとまづ都に帰る。これわが流離のはじめなり。
前夜
雪深し黙みゐたれば紅の月いで方となりにけるかな
河口
思ひきや霧の晴間のみをつくし光りゆらめく河下見れば
朝霧にかぎり知られぬみをつくしかぎりも知らぬ恋もするかな
朝霧に光りゆらめくみをつくしいまだ死なむと吾が思はなくに
三崎真福寺
日だまりに光りゆらめく黄薔薇ゆすり動かしてゐる鳥のあり
黄薔薇光りゆらめくとも知らず雀飛び居りゆらめきつつも
二町谷
寂しさに浜へ出て見れば波ばかりうねりくねれりあきらめられず
寂しさに男三人浜に出で三人そろうてあきらめられず
八景原
海人が子が潜り漕ぎたみみるめ刈るここの漣かぎり知られず
八景原の崖に揺れ揺るかづらの葉かづら日に照るあきらめられず
小牛ゐて薊食み居り八景原小牛かはゆしあきらめられず
来て見ればけふもかがやくしろがねの沖辺はるかに…