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![]() ぶしゅうこうひわ |
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作品ID | 56869 |
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副題 | 01 武州公秘話 01 ぶしゅうこうひわ |
著者 | 谷崎 潤一郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「武州公秘話」 中公文庫、中央公論社 1984(昭和59)年7月10日 |
初出 | 「新青年」1931(昭和6)年10~11月号、1932(昭和7)年1~2月号、4~11月号 |
入力者 | kompass |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2016-10-30 / 2016-09-09 |
長さの目安 | 約 217 ページ(500字/頁で計算) |
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[#挿絵]
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武州公秘話序
伝曰。上杉謙信。居常愛二少童一。又曰。福島正則。夙有二断袖之癖一。老而倍[#挿絵]太甚。終至二失レ家亡一レ身矣。雖レ然是豈一謙信一正則而已乎。世所レ謂英雄俊傑者之於二性生活一也。逸事異聞之可レ伝可レ録者頻多。曰二男色一曰二嗜虐性一。則是武人習性之所二敢使一レ然。非三復足二深咎一也焉。本篇所レ伝武州公者。夙生二于戦国一。智謀兼備。武威旁暢。真為二一代之梟雄一矣。而坊間伝云。公亦被虐性的変態性慾者也矣。吁是果真乎。雖二余未一レ能レ知二其果信乎否乎一其事已奇。其人豈可レ不レ憐哉。而正史不レ伝レ之。世人不レ知レ之。余頃者読二桐生氏所レ蔵之秘録一。竊知二公之為一レ人。審レ有二公胸裏之窈糾令々甚切者一。咨嘆久レ之。王守仁曰。破二山中賊一易。破二心中賊一難。雖レ然公之武威。[#挿絵]如二[#挿絵]虎一。偃武弭兵之功。誰有二亦能及レ之者一哉。余則有レ所レ感。藉二体於稗史小説一。聊以叙二公性生活之委曲一。則以二武州公秘話一名レ篇。読レ之者。無三徒為二荒唐無稽之記事一幸也矣。
昭和十歳次乙亥初秋
摂陽漁夫識
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武州公秘話総目録
巻之一
妙覚尼「見し夜の夢」を書き遺す事、並びに道阿弥の手記の事
武蔵守輝勝の甲冑の事、並びに松雪院絵姿の事
巻之二
法師丸人質となって牡鹿城に育つ事、並びに女首の事
法師丸敵陣において人の鼻を[#挿絵]る事、並びに武勇を現わす事
敵味方狐疑の事、並びに薬師寺の兵城の囲みを解く事
巻之三
法師丸元服の事、並びに桔梗の方の事
筑摩則重兎唇になる事、並びに上[#挿絵]の厠の事
巻之四
桔梗の方河内介に対面の事、並びに両人陰謀の事
則重鼻を失う事、並びに源氏花散里の和歌の事
巻之五
河内介父の城に帰る事、並びに池鯉鮒家の息女と祝言の事
道阿弥感涙を催す事、並びに松雪院悲歎の事
巻之六
牡鹿城没落の事、並びに則重生捕の事
[#改丁]
武州公秘話巻之一
[#挿絵]
妙覚尼「見し夜の夢」を書き遺す事、並びに道阿弥の手記の事
「見し夜の夢」の作者である妙覚尼と云う尼がどう云う素性の人間で、どう云う時に斯くの如きものを書いたのか委しいことは知るよしもないが、前後の文意から察すると、此の婦人は武州公の奥向きに勤めていた侍女であったことは明かである。そして武州家滅亡のゝちに剃髪して尼となり、何処かの「片山里に草の庵を結んで、あさゆう念佛を申すよりほかのいとなみもなかった」と、自ら記している。つまり此の手記は、老後のつれ/″\に在りし世の事どもをおもい出だして書き綴ったと云う風に見えるが、しかし「念佛を申すよりほかのいとなみもない」尼の身が、なんの目的でこれを書く気になったのだろう。尼自身の云う所に依れば、「つら/\武州公の行状を考えると、世…